僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

笑顔の裏で腐る

日記といいつつ数日前の記録を記す形に

なってしまっているが、

書かないよりはマシだと考えるようにする。

月曜日、整骨院へ行った後、

またも呑みに出ることにした。

久しく行っていなかった、新宿二丁目に。

『F』に行こうと思う。

まだキャッシングで借りた金が

存分に残っていたから可能なのだった。

「いらっしゃい」

久々に聞くこの酒嗄れたママの声。

久々に見るこの薄暗い空間。

敢えて本当の店名は明かさないが、

名称が無いと記述し辛いので

ここでは店名を『F』と呼ぶことにする。

僕は二丁目で飲む時はいつもこの『F』に来る。

カウンターしかない狭い店内で、

僕と同じゲイの男達が犇めき合い

不味い焼酎を呷っている。

いつ見ても同じ光景だ。

大体ゲイバーで出される焼酎というのは

スーパーで買えば1本1000円程の品だが、

ゲイバーで飲むとなると一本あたり大体7千円位になる。

7千円というのは僕が7時間労働して得られる金額だ。

それを費やすほどの価値がこの酒にあるのか。

そんな疑念を抱きながら、店子にボトルを注文した。

割り物はアセロラにしてもらった。

アセロラならば他の割り物よりも

酒の不味さを感じずに済むから。

無言で店子から出された

湿気たスナック菓子をつまみながら

やたら濃い酒をちびちび呑む。

「久し振り。

 もう、久々過ぎて名前忘れちゃうとこだったわよ。

 駒ちゃん。いつ以来?」

再来を歓迎しているかのような口振りだが、

さして興味は無さそうであるのが態度に現れている。

そりゃそうだ。

滅多に来ない上、喋らないし、大して金も落とさない客など

店にとっては何のメリットもない。

「さあ。去年の暮れぐらいじゃないですかね」

それを察し僕も適当にあしらう。

ママとの会話はそれきりで終わってしまった。

再び一人寂しく酒を啜った僕の背を、

突然誰かが強く叩いた。

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「駒ちゃん!

 久し振りだねえ! 元気してた?」

思いっきり咽ながら振り返ると、

顔を真っ赤にして笑う亘の姿があった。

亘というのは、この店の常連で、

僕が来るときには必ず居る男だ。

明るくて気さくで、誰とでも打ち解ける人気者。

歳は確か僕の3個上だったと記憶している。

そしてなにより、イケメンだ。

亘の周りには常に人が居て、

人の輪の中心には必ず亘が居る。

また、亘を取り囲む人々もイケメンや人気者が非常に多い。

当然の事ながら、亘は羨望の的で、彼を狙っている輩は

一人や二人どころの話ではない。

常に日陰者であり、端に追い遣られがちな僕は、

そんな日向にいる彼らを

いつも遠巻きに眺めているのだが、

どんなに僕が日陰に隠れようと、どんなに端に追い遣られようと

必ず声を掛けてくれる。

素直に良い奴だ。

だがしかし、亘が僕にも平等に接することを理由に

亘目当ての人から辛く当たられる機会も少なくないので、

正直なところ多少困惑している。

酔いが回り、立っているのもままならないのか、

亘は僕の肩に顎を乗せてむにゃむにゃしながら喋った。

「全然来ないんだもんよぅ、駒ちゃんってば。

 めっちゃくちゃ寂しかったよ~」

大分酔っ払っているようだ。呂律もろくに回っていない。

「ほら、どいてどいて。席つめて。

 俺は駒ちゃんの隣がいいの!」

間違いなく本心ではなく、酔ったノリだ。

無理やり隣の人を押しのけた亘が

僕の隣の席に座った。

「でさあ、駒ちゃん、彼氏できた?」

『出来るわけないじゃない』

どこかから誰かのクソの様な野次が飛んだ。

放っておいてくれ。

「……だってさ。

 で、亘さんは今何人彼氏居んの」

僕は亘に八つ当たりして、嫌味を言ってやった。

「ひでえ、まるで俺が浮気モンみてーじゃん。

 今は彼氏も居ないし、彼氏が同時に複数居た事もねーから」

「どうだか」

僕は鼻で笑って、席を離れてトイレへ行った。

その間、ほんの数分だったと記憶している。

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席へ戻ると、僕の飲んでいたグラスが片付けられていた。

まだ半分以上残っていたのに。

トイレのために離席しただけなのに。

引き攣った笑みを浮かべつつ、無言で席に座ると、

それに気付いた亘がすかさずママに言った。

「ママ、なんか駒ちゃんのグラスがなくなっちゃってるよ~。

 新しいの出してあげて! ほら、はやくはやく」

「あらそう。ごめんなさいね。

 今新しく作り直すから」

ママは笑顔で亘を取り成していたが、

僕と同じ引き攣った笑みを浮かべていた所から、

胸中穏やかではないことと見受けられる。

僕だって解っている。わざと酒を捨てられた事ぐらい。

しかし、新たに出てきた酒に口を付けてみて流石に驚いた。

物凄く濃い。

ふいに自分のボトルを見てみると、

まだたった2杯しか飲んでいないのに

もう残りが3分の1程度まで中身が減っていた。

これはあんまりだ。

僕は深く深く嘆息した。

ここでも僕は厄介者扱いだ。

どこにも僕の居場所は無い。

急に亘が僕の肩を掴んだ。

「駒ちゃん、せっかくお店来てるんだから

 溜息なんかついちゃダメだよ。

 幸せがどんどん逃げてっちゃう。

 とにかく呑め! 楽しく過ごそうぜ。

 ほら、そのボトルが空いちゃったら、

 俺のボトルから呑んでいいからさ」

店子があからさまに僕を睨みつけた。

ママも煙草を燻らせつつ怪訝な顔付きで

僕と亘を眺めている。

他の客達も殆ど無言だ。

普通の神経をしていたら、こんな空気には到底耐えられないだろう。

しかし僕はバイト先で揉まれ、こんな状況慣れっこだった。

一方の亘は、酔いのせいで

この険悪な雰囲気に気が付いていないのか、

敢えて無視しているのか、

心底酒を楽しんでいるという表情を浮かべている。

「あっ、ねえねえ、駒ちゃんの酒、一口ちょうだい。

 俺のグラスと取っ替えっこね」

「え、あぁ、はい。いいですよ。

 亘さんのは――」

ジャスミン割り!

 いい香りでしょ、えへへ」

屈託の無い亘の笑顔は、

恣意的に作り出されたこの険悪な雰囲気さえをも

完璧に打ち砕く程の力を持っていた。

途端に場が明るくなる。他の客も談笑し出した。

店子とママも諦めたのか、再び他の客達と話し始める。

亘の酒は明らかに薄かった。自分が飲まされていた物から比べて。

これが現実。

僕は亘の話に適当に相槌を打ちつつ笑顔を取り繕った。

その心の中はどろどろに腐らせたまま。

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