僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

現実或いは夢

今日もまた困った事になった。

いつもの定食屋がまた休みだったのだ。

そしてコンビニで弁当とお茶を買って

xxタワーのオープンスペースへ来たはいいものの、

またも満席なのだ。

こうなったら、また同じ過ちを犯すしかあるまい。

せめて今度はゆっくり食べたい。

今日は席が空くのを待つ事無く、

自動販売機コーナーへ直行しようとした

その時だった。

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「駒ちゃん!」

窓際のテーブルに居た三人組の一人が、

僕を大声で呼びかけてきたのだ。

この声。そしてこのビル。

という事は。

「おーい、駒ちゃん!

 こっちこっち!」

そう。亘だった。

xxタワーに勤務していると聞いてはいたので、

近い内に遭遇するだろうと予想はしていたが、

まさかこんなに早くに遭遇するとは

思いもしなかった。

亘は同席の二人に、一つの椅子に載せてあった

荷物を退かして席を空けるよう命令した。

僕はその時のその一言一句を正確に捉えた訳ではなかったが、

その口振り一つと他の二人の応対の仕方で、

亘はこの中で最も偉い立場に居る人間なのだろうと

すぐに推察出来た。

ありがたくも複雑な気分で、席に座らせてもらった。

同席していたのは、まだ若そうで

はつらつとした雰囲気のスーツ姿の男性と、

パンツスタイルの婦人用スーツを纏った、

いかにも利発そうな女性だった。

男性の方は、まだ23、4だろうか。

目に煌びやかな輝きがあって、どこか仔犬のような印象を受けた。

女性の方は僕と同い年ぐらいだろうか。

パンツスタイルで派手さはないが、フェミニンさが

前面に押し出されている。美人だ。

だがどことなく、僅かながら険しさを感じさせる何かがあった。

亘は今日は一段と引き締まっている印象があった。

ネクタイもいい物をしていたし、

スーツもシャツも皺汚れ一つ無い。

これから商談でもあるのだろうか。

一方のぼくときたら。

よれよれのカーゴパンツ

襟元の伸びたTシャツにジップアップのパーカという、

とんだ場違いの格好をしている。

私服での勤務を許可されているのを良いことに、

こういう格好で勤務している事が

上長らの気に障っているのだろうという

自覚も多少はあった。

だがあまり被服費に金をかけていられない。

ふいに同席の女性から鋭い一瞥を受けたような気がして、

驚いて目をやったが、彼女は何事も無かったかのようにしている。

気のせいだったのだろうか。

「駒ちゃん! やっと会えたね!」

「やっと、って。先週会ったばっかじゃないですか」

「いやあ。一週間って長いじゃん?

 ほら、工藤。この子が駒ちゃん」

「へえ、この方が、先輩がよく仰ってる――」

工藤、と呼ばれた男性が僕に目をやる。

「そう、『飲み友達』!」

亘が僕との関係を他の人達にどう説明するか

少し心配していた。

別にゲイバーで知り合った仲だと

触れて回られて困る訳ではないが、

白昼堂々こんなに人が居る中でカミングアウト大会になるのは

気が引けたのだ。

亘はその辺りの話題は上手く往なしてくれた。

「いやあ、ここでこうして会うって事は

 本当に近くに勤めてるんだね。

 何階なの? 駒ちゃんの職場は」

「いや、自分の職場はこのビルじゃなくて、

 ……こっから5分ぐらい行った所で、

 本当はJRのS×駅より

 私鉄のNS×駅の方が近いんです」

「あ~あの辺か。

 ま、俺らもたまに行くけどな。

 な、園田」

そう言って亘は女性に目をやったが、

園田と呼ばれた女性は小さく、はい、と

素っ気無く答えただけだった。

園田と呼ばれた女性の素っ気無さに多少

疑問を抱いた様子の亘だったが、

とりあえずはメシ、と言って

昼食を食べる事になった。

僕はコンビニで買ってきた498円のから揚げ弁当。

一方、亘達はこのビルに入っているテナントで買ってきた

900円ぐらいのランチボックス。

この些細な差に、決定的な経済的な格差を感じた。

こういった格差を感じるのはいつもの事なので

慣れているつもりだったが、

多少落ち込んだのを察したのか、

亘が早速声を掛けてくれた。

「あっ、駒ちゃんのから揚げ一個と、

 おれのおかず一切れと取替えっこしない?」

「いいですけど、僕の弁当、

 あんまりおいしくないですよ」

「俺から揚げ大好きだもん! ありがと」

他の二人は、仕事時の亘と、僕と接する際の亘との

あまりのギャップに驚きを隠せない、というような様子だった。

園田と呼ばれた女性は、僕に軽く会釈をしただけで、

僕はまるで居ないかのように振舞っていた。

一方の工藤と呼ばれた若い男性は、

目をきらきらさせながら

社外での亘の様子を訊いてきたので、

良きムードメーカーで優しい人、とだけ

答えておいた。

食事を終え、すぐに亘は他の二人にこう告げた。

「悪いが、先に戻っててくれ。

 ちょっと駒ちゃんと積もる話があるもんでね」

「ですが――」

園田と呼ばれた女性はそう言い掛けた。

だが、亘は今まで見せた事の無い

鋭い眼光で彼女を一瞥した。

すると彼女は、何も言わず席を立った。

工藤、と呼ばれた男性は、慌ててその後を追いつつ、

『今度自分も呑み誘ってくださいよ、駒さん!』と

僕に言い残して去っていった。

「亘さん、偉いんですね」

僕の言葉に亘は答えず言った。

「今日はバイト何時上がり?」

「今日はっていうか、毎日16時上がりですよ」

「駒ちゃんさ、今晩あいてる?」

僕は声を潜めた。

「……デートのお誘いですか?」

「そのとーり!」

亘は馬鹿でかい声で答えた。

僕は溜息をついた。

腹を決めて話を続けた。

「わかりました。

 亘さんは何時に終わるんですか」

「わかんない」

「亘さんまで僕の事待ちぼうけにさせるんですか」

「俺はあんなに酷くないよ。

 けど、まだわかんない。

 連絡するからさ、待っててよ。

 多分20時ぐらいになっちゃうと思うけど、待てる?」

「……いいですよ。結局長時間待つ事になりますけど、

 どうせ明日も明後日も予定なんかないし」

「やったね」

亘はそう言うと僕の手を両手で握ってきた。

そしてこう言った。

「20時に、このテーブルで会おう」

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