僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

溺れる夜の隙間から

20時。

昼間、昼食を摂ったテーブルにつき、

僕は亘を待っていた。

15分を過ぎた頃、亘はやって来た。

「ほらね、そんなに待たなかったでしょ?」

「15分遅刻です」

「それぐらい許してよ。

 ね、ほら。奢るから、一緒にご飯食べよう」

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xxタワーのレストランで、

結局僕はまた亘に夕食をご馳走になってしまった。

食事中、亘は始終笑顔を絶やさなかった。

食事を終える頃には21時半を過ぎていた。

亘はレストランを出ると、

僕を連れxxタワー内のコンビニに入り、

缶ビールを1パックと、菓子類をいくつか買った。

そして僕をxxタワー関係者入り口へと連れて行った。

亘は受付のある管理人室の守衛に自分の入館証を見せ、

何やら話をして書類に記入している。

そんな亘の後姿を眺めながら、

僕はただぼんやりしていた。

待った時間が長かったせいか、多少の疲労感と、

食事によって得た満腹感から来る眠気があった。

「さ、駒ちゃん。

 これ首に掛けてね」

亘は僕に『入館許可証』と書かれたカードの入った

ネックストラップを渡してきた。

促されるままに首にかける。

亘の後ろにつき、本来であれば

xxタワー内にオフィスがある社員でなければ

入れないxxタワーの入館ゲートを通過し、

エレベーターホールへと足を踏み入れた。

ワーカホリックの人間で溢れているであろうこのビルであっても、

流石にこの時間ともなると人気は少なかった。

エレベーターもすぐにやって来た。

亘と二人でエレベーターに乗り込む。

僕はエレベーター内の奥の隅っこへ行き、

壁にもたれかかった。

亘は一番上の階のボタンを押し、

エレベーターの扉が閉まると、

僕のすぐ隣までやって来た。

「はい。これ持って」

亘はさっき買ったものが入ったコンビニ袋を真顔で僕に差し出した。

その言葉通り受け取ろうとするも、

何故か亘は袋から手を放そうとしない。

「亘さん、持ちますってば」

「ん」

亘はコンビニ袋の取っ手の片方だけを手に持ち、

もう片方の取っ手を僕に差し出してきた。

亘の意図が解せず、首を捻りながら

片方の取っ手だけを持つ。

「こうしてると、カップルみたいでしょ」

「はあ」

僕はさして興味が湧かず、エレベーターの

階数が表示される液晶パネルだけを見上げていた。

エレベーターはどんどん上昇していっている。

それでも最上階ともなると、なかなか到達しないもので、

朝急いでいる時なんかは大変だろうなあ、などと

またもぼんやりと考えていた。

「駒ちゃん、今何考えてんの」

「亘さんは何考えてるんですか」

「駒ちゃんのこと。

 ね、何考えてんの」

「こんだけエレベーターの時間が長いと、

 大変なんじゃないんですか。

 朝寝坊した日とか、トイレ急いでる時とか」

亘は一瞬きょとんとした表情を見せると、

くすくすと笑い出した。

「そうだね。確かに」

最上階に着いた。

亘に案内されるがまま、室内へと入る。

「はい。ここが俺の職場」

見渡す限りに広がるオフィスには誰も居らず、

電気も消灯されており暗かった。

沢山の机が並んでいた。

どこが亘の席なのだろうと訊こうとした刹那、

亘は僕の手を取り歩き出した。

突然の事に驚きながらも、暗闇に足を取られぬよう

注意を払って亘の後ろを歩いた。

亘はあるドアの前で立ち止まり手を放した。

扉を開け、僕に中に入るよう促す。

中は応接室になっているようだった。

奥には大きな窓があるが、ブラインドが下げられている。

黒皮で出来た2人掛けのソファが一つと、

同じく黒皮で出来た一人掛けのソファが2つ

ローテーブルを挟んで向かい合わせに置かれているのが

暗がりの中にぼんやりと見えた。

僕は2人掛けのソファまで手探りで歩みよって腰掛けた。

亘は部屋に入り何故か電灯を点けず扉を閉めると、

窓のブラインドを上げ、僕の隣へと腰掛けた。

ブラインドが上げられたことで、外の仄かな明かりが入り込んで来て

部屋の中は多少明るくなった。

だからと言って、視界に差し支えがない程ではない。

薄暗がりの中に、辛うじて視界が確保出来ている状態だ。

「……どうして、電気点けないんですか」

「お喋りしながらお酒飲むだけだもん。

 暗くたって平気だろ」

「っていうか、僕みたいな社外の人間連れ込んで、

 挙句酒盛りって、大丈夫なんですか」

「大丈夫だから連れてきたんだろ」

僕は普通の声量で話していたが、

亘は囁くように喋っていた。

それにつられて、自然と僕の声も小さくなっていった。

「ほら、呑もうぜ。乾杯」

「ありがとうございます。いただきます」

二人でビールを開けて呑み始めた。

だが亘は珍しく言葉少なだった。

段々目が暗闇に慣れてきて、視界がはっきりしてきた。

亘はいつになく無表情でビールを呷っている。

珍しく気まずい雰囲気を感じていた僕は、

ちびちびと啜っていたビールの缶をローテーブルに置き、

ソファを立ち窓へと向かった。

窓から見えた景色は絶景だった。

夜のS×が小さく眼下に広がっている。

遠くにはレインボーブリッジも見える。

S×という街を小さく思えたのは初めてだった。

こんなに小さい街で、ここからは識別も出来ない程

小さな雑居ビルに入っているオフィスで、

ここからは肉眼で捉える事など決して出来ないであろう

小さな小さな上長に、毎日のようにやり込められている僕は、

更に小さくてちっぽけな存在だ。

そう思ったとき、何故か不思議なことに気分が軽くなった。

「亘さん、すごくいい眺めですね。ここ」

亘は何も答えなかった。

先刻から亘が口数少なくなっている事に若干の不安を覚えた僕は、

再びソファに戻って、亘の様子を確かめた。

相変わらず、無表情のまま、ビール缶を手に持っている。

「あの、亘さん――」

「駒ちゃんさ」

僕が切り出そうとした話を遮り、亘は言った。

「どうやったら、俺の事格好良いと思ってくれるの」

「前にも言ったじゃないですか。

 亘さんは格好良いですよ」

「そう言う意味じゃねえよ」

「だったら、どういう意味なんですか」

亘はそれきり、何も言わなかった。

それからとても気まずい雰囲気のまま、暗闇で2人でビールを飲んだ。

僕と亘、それぞれ2本ずつ。

終電の時間が近付いた。

xxタワーを出て、JRのS×駅に着く頃には

普段の亘に戻っていた。

亘はいつもの笑顔で、余った2本の缶ビールと

開けなかったお菓子をお土産にくれて、

僕とは違う電車に乗って帰っていった。

僕も僕で、自分の電車に乗って帰路へ着いた。

自宅へ帰る道すがら。

暗闇の中で見た亘の横顔が

やけに寂しさを帯びていたことを

思い出していた。

家へ着いて、部屋の鍵を開けようとしたその時、

亘の笑顔が少なかったことに

一抹の寂しさを覚えている自分に気が付いた。

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