僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

困惑の日 前編

今日は出勤してタイムカードを押すなり

上長に呼び出された。

何だかんだで、先週のあの件以降

一度も上長と会話をしていなかった。

僕は恐る恐る上長の机へと向かった。

何かまた嫌な事でも言われるのだろうかと

内心恐れていたが、

今日の上長の言葉は違った。

「駒君、今日は、ええと……その、

 ……##社に、出向して来て欲しい」

##社と言うのは、亘の会社の事だ。

上長曰く、亘が直々に僕を指名して

出向を命じさせたらしい。

「はあ、解りました。

 何か特別持っていくような物や、

 書類等はありますか?」

「ああ、筆記用具ぐらいあれば大丈夫だと思うが、

 今日は君は##社から直帰する形になるそうなので、

 そのつもりで居てくれれば構わない」

「……菓子折りとか、必要ですかね」

「いいや、今日のところは業務上での出向だから

 特には要らんだろう」

「……本当に大丈夫ですかね」

「……あ、ああ、多分」

上長は非常に気まずそうに話していた。

一体亘の会社で、僕は何をさせられるというのだろうか。

一応上長に念を押しておいた。

「上長。ご存知でしょうが、

 僕はこの会社の、そういう事の知識は全くありません。

 ですので、もし向こうで何かあったら、

 すぐ僕が質問が出来るように、

 誰か一人必ず専門的な知識のある方が

 電話に出られる体制にしておいてください」

「……解った」

なんだかとんでもない事に巻き込まれている様な気がして、

あまり気乗りはしないが、

業務上の指示で、しかも相手先から直々に僕への指名とあれば

僕以外の人間が行く事は出来まい。

腹を括って準備をした。

一度脱いでロッカーへとしまった上着を

取り出して羽織り、

リュックを背負った。

オフィスを出る前に、上長にもう一つだけ質問をしておいた。

「上長、タイムカードはどうしましょう」

「勤務時間の管理に関しては、向こうから伝えてもらう

 という約束になっているよ。

 恐らく残業になると仰っていたが、

 ……残業代は分単位で出すから」

残業になるのか。憂鬱感は増したが、

その分稼げるのならラッキーだと割り切る事にした。

「解りました。それでは行って参ります。

 もしもの際にはお電話しますので、

 くれぐれも宜しくお願いします」

それだけ上長に告げると、僕は職場を後にした。

初冬のオフィス街を歩いて、xxタワーへと向かう。

今日はちょっと厚手のアウターを着てきたが、

寒がりな僕には正解だったと思う。

リュックにはマフラーまで入っている。

帰りが遅くなって寒くなっても安心だ。

xxタワーに着いた。

だがその時にようやく思いついた。

どうやって入館するのだろう。

守衛室になんて伝えれば、亘の会社に取り次いで貰えるのだろうか。

上長はいつも肝心な所を伝え忘れるのだ。

そのせいで何度業務に支障をきたして来た事だろう。

まあ、亘にLINEでも送れば良いか。

外に出た開放感からか、急に何もかも楽観的になってしまい

xxタワー1Fにあるフリースペースで茶でも飲みながら

LINEを送ろうと思い立った。

コンビニに寄って暖かいペットボトルのお茶を買い、

フリースペースに向かうと、

一番奥にある窓際の席に

ぱりっとしたスーツを身に纏った亘が

一人で手帳を眺めながら座っていた。

「おはようございます」

「おはよ! 来てくれてありがとうね。

 今日は色々頼みたい事があるから。宜しく」

亘は僕に入館証を渡すと、

早速エレベーターホールへと向かうよう促した。

エレベーターを待ちながらリュックに先程買ったお茶をしまった。

エレベーターに乗り込んで##社の入っている

最上階を目指す。

亘の横顔はいつもより凛々しく引き締まっている。

エレベーターが最上階に着くのを待ちながら、

スーツ姿でこうシャキッとしていると

亘は本当に良い男に見えるなとぼんやり思った。

最上階に着いた。亘が勤務している##社のフロアだ。

亘の後に続いてオフィスへと入る。

亘が入るなり、入り口近くに居た大多数の人間が

はつらつとした声でおはようございます、と

亘に挨拶をした。

一方の亘は控え目なトーンで、おはよう、と返し

すたすたと行ってしまう。

慌てて自分も後を追って亘に着いて行く。

亘に案内されたのは、応接室だった。

夜と日中では景色が異なって見えたせいで

一瞬気が付かなかったが、

先日、夜に連れて来られた部屋だ。

亘は大きいソファに腰掛けると、

僕にも隣に座るよう求めて来た。

一応業務で来ているのだからとは思ったが、

未だに亘の思惑が解らずに居たので

求められた通りに隣へと着席した。

隣に座った亘は満足そうに僕の顔を眺め、

にっこり微笑んだ。

「今、お茶持ってこさせるからね。

 それともコーヒーの方がいい?」

亘は甘く囁くように言う。

「いえ、あの、お構いなく」

「紅茶もあるよ。さ、選んで」

「……じゃあ、コーヒーで」

亘は応接室内に置かれていた電話機で内線をかけ、

誰かにコーヒーを持って来させるよう指示した。

「あの、亘さん。

 僕、アルバイトっていう身分ではあるんですけど、

 一応、社を代表して仕事をしに来たんです」

「知ってるよ。そうして貰う為に、俺が呼んだんだもん」

「ですから、何をしたら良いか――」

「そうだね。何したら良いか、まだ解んないよね」

「はい。ですので、ご指示をいただけますか」

亘は変わらずにこにこしている。

「駒ちゃん。一緒にお仕事しようね」

そう話していると、ノックと共に

女性社員が入室して来て、

二人並んで座っているのを不思議がる事もなく

コーヒーを丁寧に二人分出して部屋を出て行った。

亘はコーヒーを2、3口啜ると、何かを思い出したようで、

急いで話し出した。

「ごめん、とりあえずはここで待ってて。

 結構長くなると思うから、本読んでてもいいし、

 携帯いじっててもいいよ。

 どんなに遅くなっても13時までには戻ると思うから」

それだけ言い残して亘は部屋を出て行った。

現在時刻は10時ちょっと過ぎだ。

一体どんな仕事をさせられるのだろう。

不安はあったが、言われたとおり

大人しくiPhoneを弄って待つ事にした。

(続きます)

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