僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

重ねた唇の感触を僕は

昨日は亘に呼び出され、新宿へ行って来た。

18時に新宿駅東南口待ち合わせで、

僕が新宿に着いたのは17時57分だった。

ギリギリだ。

改札を出ると、既に亘が改札のすぐそばに

立っていた。

「おう、駒ちゃん。

 来てくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ。

 いつも甘えちゃってすみません」

「いやいや。昨日は悪かったね。

 せっかく待っててもらったのに。

 だからそのお詫びって事で。

 寒いね。暖かくしてきた?

 で、どうしよっか。お腹空いてる?

 まだ晩飯には早いかな」

「自分はまだ食べなくても大丈夫ですけど、

 亘さんにお任せします」

それなら、という事で、

いくつか亘の行きたい所へ付き合う事になった。

南口の横断歩道を渡り、新宿サザンテラスへ出た。

毎年恒例らしいクリスマスのイルミネーションが

既に催されており、それ目当てのカップルの姿が目立つ。

煌びやかなイルミネーションの中を、

適当に雑談しながら歩いた。

そうしている内に、

まず亘の一番目の目的地という

FrancFrancに着いた。

亘は1階の雑貨のフロアで

ルームフレグランスとかいう

全くもって暮らしに必要性の薄い雑貨を買っていた。

次は2階へと移動し、家具を物色し始めた。

亘がいくつも物色していたのはソファだった。

色々座ってみたり、デザインや色味を

じっくり見て回っていた。

今日買うつもりではないのだろうが、

結構真剣に選んでいる様子だ。

「ねえ、駒ちゃんだったら

 どのソファがいい?」

ソファに腰掛け、カタログを開いて

ソファのページを示しながら亘は僕に訊いてきた。

「解んないですけど……。

 そもそも、一人暮らしの部屋にソファって必要ですか」

自分もその隣に座り、ページを眺めながら答えた。

「実は俺もそう思ってて、

 ずっと買わないで居たんだけど、

 ソファの方がオシャレじゃん?

 で、冬場は炬燵を出すようにしてるんだけど、

 炬燵ってマジでぐうたらになるから、

 良くないなって思って……」

「確かに、一人暮らしの部屋に炬燵は

 人として色々ダメになりそうですね」

「それに、もし誰かを部屋へ呼んだ時に、

 ソファの方がカッコ良く見られるかな~って」

「またそんな事言って。

 別に部屋なんかどうだっていいじゃないですか。

 綺麗にさえしてれば」

「どうして。カッコつけたいじゃん。

 綺麗でカッコいいのが一番いいじゃん」

「住んでる人が格好良ければ、

 別にインテリアなんかどうだっていいでしょう」

「……ひょっとして、今、俺の事カッコいいって

 言ってくれてる?」

「住んでる街と物件そのものとか立地の方が

 インテリアより重要なんじゃないんですか。

 カッコつけたいんだったら」

僕は亘の質問を敢えて無視してソファを立った。

その後、僕達はFrancFrancを出て、

亘と高島屋のふもとの並びにある服屋を

いくつか冷やかして、

20時頃食事を食べに店へと向かった。

南口を少し歩いて、とある雑居ビルへと

連れて来られた。

そう。皆さまは覚えているだろうか。

先日連れて来られた、あのイタリアンが入っている

雑居ビルだった。

「亘さん……」

「本当に気にしないでいいから。

 昨日のお詫びだし。

 それに何より、俺がここで食べたいんだから」

今回ばかりは、僕は亘の主張に負けた。

店内に入る。

こじんまりとしていたが、趣のある店だ。

一番奥の席に案内された。

僕はメニューを隈なく読み、

なるべく値段が張らず、なおかつ満腹になり易いであろう

料理を頼もうとしたが、ことごとく亘に阻止された。

亘はまず、シャンパンのボトルを選ぶと、

次から次へと、ちょっとしかないくせに

値が張るような料理ばかりを注文していった。

そのどれも確かにとても美味しかったのだが、

量が少なく、食べても食べても満腹には至らない。

挙句、亘はシャンパンのボトルをもう1本追加で注文した。

空腹だった体にシャンパンの酔いがまわったのか、

僕は亘への遠慮を忘れつつあり、

亘を止める事もなく、次から次へと出てくる

少量で高級な料理を

どんどん胃に収めていった。

会話も弾んだが、やはり酔っていたせいか、

何を話したかはあまりよく覚えていない。

ひとしきり食べた。

しかしどの料理もほんのちょびっとだけだったので、

まだ物足りないぐらいではあったが。

僕は断りを入れ、トイレへと立った。

戻ってきた頃には既に亘は会計を済ませてしまっていた。

その間ほんの5分にも満たなかったというのに。

「駒ちゃん。当然、まだまだ呑めるよな?」

ほろ酔い加減の亘が、わざと声を低くして

ふざけて僕を脅すように言った。

「もちろんですよ」

僕も少し酔いつつあり、自分の置かれている立場を

忘れつつあった。

亘は既にこの店での飲食代に

恐らく数万近く支払っているという事も。

店を出た。

今何時ぐらいだろう、とふと思った。

酔って少し調子づいた僕は、ふざけて

亘の左手を引っ張り軽く袖を捲り、

亘の時計で時刻を確認した。

現在時刻は22時半。

しかし、それよりも。

「亘さんの時計、超カッコいい!

 めっちゃくちゃいい時計してますね」

時計の良さに僕は目を奪われた。

酔っていてもはっきりと判別がつく程に

亘は立派な時計を着けていた。

酔ってあけすけになりつつあった僕が

正直に発した言葉に、亘はかなり気を良くした様子だった。

「だろ~!?

 見る目あンな~、駒ちゃんめ。

 次の店でも奢ってあげちゃうからね」

亘は僕の腕を引いて街を渡り、

次の店へと連れて行った。

周囲の目が気になったが、

すれ違う人々の目にはただの酔っ払いとしか

映らなかったようで、

誰一人として僕達を気に留める人は居なかった。

今度連れて来られたのは、

先程の店とは違い、大きいビルだった。

エレベーターホールも広々としている。

そして二軒目の店もビルの上層階にあり、

エレベーターを待った。

亘曰く、完全個室の居酒屋らしい。

うきうきしながらエレベーターを待つ亘とは裏腹に、

僕は街の寒気に酔いを醒まされ、

冷静に戻っていた。

「亘さん、やっぱり自分は今日のところは

 この辺で失礼します」

亘は至極驚き、慌てて僕に訊いて来た。

「えっ、どうして!

 何かあったの? 嫌だった?」

「嫌なんて事は何もないですけど、その……。

 僕、亘さんが良くしてくれるからって、

 ちょっと甘え過ぎてるなって思うんです。

 さっきのお店でもあんなにご馳走になっちゃったのに、

 次の店でも奢って貰うなんて、

 亘さんに悪すぎます」

「本当に気にしなくていいって!

 俺が着いて来て欲しくて誘ったんだから。

 それにさっきの店でだって、俺、ただ単に

 自分が食べたい物食べて、飲みたい酒飲んだだけで、

 それに駒ちゃんを付き合わせたってだけだから!

 だから、何にも気にしなくていいんだってば」

「でも、そうは言っても……」

「そんなに俺と居るのが嫌?」

「違うんです。そんな事じゃないんです。

 でも、僕、亘さんに色々とお金出して貰ってばっかりで――」

「でも、じゃない!

 ったく、でもでもだってばっかうるせえんだよ、お前は」

珍しく語気を強めて亘は言った。

亘に初めて強く言われた僕は、

思わず何も言えなくなってしまった。

「――要するに、無償で何かされるのが

 居心地悪いんだろ、お前は」

「えっ……あっ、えっと」

いきなり亘は僕の両肩をきつく掴み、力ずくで

エレベーターホールの隅の方へと押しやった。

思わぬ強い力にぐいぐいと押され

転びそうになった。

「そんなら、これでいいだろ。

 二軒目はこれの代償って事にすりゃ、

 納得行くんだろ」

亘は僕の両肩をきつく掴んで壁に押し付けたまま、

僕の唇に口付けた。

掴んだ手の強さとは対照的に、

ごく軽い口付けだった。

亘の唇が離れる。

思わず咄嗟に手で口を抑えた。

それを見た亘が、

急にとても悲しそうな顔をして言う。

「……やっぱ、嫌だった?」

抑えた手をそっと口から離し、

水分を増して行く亘の瞳から

目を逸らし、僕は言った。

「……嫌な訳、無いじゃないですか」

嫌な気持ちなんて微塵も無かった。

唐突で強引だったから驚いただけだ。

僕だってもう気付いている。

亘の気持ちにも。

そして、亘に強く心惹かれつつある

自分自身の事も。

「今夜は、帰らないで欲しい」

僕は何も答えなかった。

ただ、重ねられた唇の感触を

僕は思い返していた。

もう一度、亘が囁く。

「今夜は、俺と一緒に居て欲しい」

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