僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

生まれて来ない方が良かったなんて言って 中編

(昨日はうっかり記事を上げる前に寝てしまったので、

 今夜は2記事連続で上げたいと思います。)

嵩兄ちゃんと深夜に近所の神社へ

除夜の鐘を聞きに行く約束をして、

実家の門をくぐった。

庭にはもう居ないころ太の小屋がそのままに残されている。

もうころ太が小屋から飛び出て来てくる事などない。

幾許かの物悲しさを押し殺し、庭を横目に玄関へ向かう。

緊張しながらインターフォンを押すと、

すぐに母が出た。

「――僕、だけど」

「あら、どうしたの!」

「いや、その……」

僕が言い終えるより先に母はインターフォンを切り、

玄関から飛び出して来た。

「驚いたわ、どうしたの」

「えっと……。

 嵩兄ちゃんが、年末だし一緒に

 里帰りしようって話になって」

「まあ理由は良いから、寒いし早く上がんなさい。

 暖かいもの出すから。

 もうお腹空いてるなら、お蕎麦もあるわよ」

母に促されるまま、実家に上がった。

一体何年ぶりだろう。

実家の中は僕が居た頃と殆ど変わっておらず、

雰囲気が少し古ぼけたかな、という程度の印象だった。

居間へ通された。居間では継父が

炬燵に当たりながらテレビを眺めていた。

元来関係が悪く、家を出てからは

一度も会話を交わしていない継父とのいきなりの再会に

僕は思わず面食らったが、継父は僕を認めるなり

存外快い面持ちで僕を迎えた。

「おお、駒。よく来たな」

「もう、来るなら電話の一つもくれたら

 こっちだって準備出来たのに。

 何もあなたの用意してないわよ。

 とりあえず今何か持ってくるから」

母はそれだけ言い残して慌しく台所へ駆けて行った。

去り行く母の背に声を投げた。

「いいよ、何にも気使わなくて」

「ついさっき、年越しの準備が全部済んだ所なんだ。

 丁度いい所に来たな」

「あ、ああ、そう」

「母さんも年末年始にお前の顔が見られて良かったと

 思ってると思うぞ。縁起が良いってな」

「はあ、まあ、そうだといいけど……」

継父は軽く笑うと、再び視線をテレビに戻したが、

少し経って思い出した様に僕に問うた。

「そういえば、成人してから駒と会うのは

 これが初めてになるのか」

「うん、多分、そう」

「そうか、そうか。

 お前、酒はいけるのか」

「まあ、普通に」

「それは良かった。正月だから、

 ちょっと良い酒を多目に用意しておいたんだ。

 後で蕎麦と一緒にやろう」

母が僕に茶を淹れて戻ってきた。

昔からずっと使ってた湯飲み。

茶を一口啜ると、実家に帰って来たという実感が

一気に強く湧いた。

それから母の用意した年越し蕎麦を

継父の用意した地酒と一緒に食べたりしている内に、

嵩兄ちゃんと神社へ行く約束をした予定の時間が近付いてきた。

意外な事に始終継父は上機嫌で、

僕と酒が呑める事を喜び楽しんでいたようで、

呑み過ぎて年越しを迎える前に潰れて眠りについてしまった。

なんとか継父を寝床へと連れて行った母が一息ついたところへ、

嵩兄ちゃんとの約束の話をした。

「そういう訳だから、これから出掛けるけど、

 もう鍵掛けて寝ちゃって構わないから。

 朝帰ってくるよ」

「あらそう、すっかりお世話になっちゃって悪いわねえ。

 よろしく伝えておいてちょうだい。

 あと、二人とも呑むの好きでしょう。

 良かったら寒いけどこれ持ってって、二人で呑みなさい」

そう言って母は冷えたエビスの500mlビール缶が2本入った

ビニール袋を渡してきた。

「うん。ありがとう」

「暖かくして行きなさいよ。

 ホッカイロとか無くていいの?」

「大丈夫。それじゃ、行って来ます。

 良いお年を」

「はい、良いお年を。私ももう寝ちゃうから」

実家を後にして、嵩兄ちゃんの家へ向かった。

本来ならインターフォンを鳴らして嵩兄ちゃんを呼び出す

約束だったのだが、嵩兄ちゃんは門の前で僕を待っていてくれた。

「どうだったよ、ウン年ぶりの実家は」

嵩兄ちゃんは白い息を吐きながら僕に訊いた。

「まあ、なんとか。

 あと、これ。うちのお母さんが、よろしくって」

僕はそう言って、ビール缶を手渡した。

嵩兄ちゃんはそれを受け取ったはいいものの、

冷たく悴んだ手に冷えたビール缶は少し辛そうだ。

「つめてっ。

 さみぃけど、年の瀬にエビスか。悪くねえな」

僕と嵩兄ちゃんは二人で歩きながらビール缶を開けて

飲みながら神社へ向かった。

エビスはいつも飲むスーパードライとは違って

キレは無いがコクと味の深みがあった。

そうして神社へ着き、除夜の鐘を聞いて

年越しを迎え、初詣をし、おみくじを引き、

その後は近くのファミレスで朝が来るまで時間を潰して、

元旦の朝7時頃に家へ帰った。

母と継父は起きて来ていて、三人で

おせちを食べ、お屠蘇を呑んだ。

僕は一晩中外を出歩いた疲れもあり、

朝10時頃に2階にある自室で眠る事にした。

自室は物置として使われていたようで

荷物で溢れかえっていたが、

幸いベッドにまでは荷物が載せられていなかった。

何とか荷物の隙間を通り抜けて、埃臭いベッドで眠りについた。

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