僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

生まれて来ない方が良かったなんて言って 後編

目が覚めた頃には時刻は既に17時半を回っていた。

酒が残っており多少頭痛があったが、起きられない程ではない。

ゆっくりと身体を起こし、再び荷物の隙間を縫って自室を出て、

階下の居間へと向かう。

居間では母と継父が退屈そうに正月のテレビ特番を

ぼんやりと眺めていた。

寝ぼけ眼の僕に母が声を掛ける。

「あら、今起きたの。

 何か食べる?」

「うーん、今はいいや」

「コーヒーでも淹れて来ようか?」

「あ、お願い」

母はぱたぱたと音を立てて居間を出て

台所へ向かって行った。

継父は僕が居間に来て炬燵に当たっても

テレビから視線を外す事なく、

ずっとテレビだけを見つめていた。

少ししてコーヒーを持って母が戻って来た。

そのコーヒーを啜りながら、

母とぽつりぽつりと会話した。

そんな会話も途切れて来た頃、継父が少し息をついて

妙に改まった雰囲気を醸し出した。

母に目線で合図を送ると、

母はどこか不穏な様相を横顔に漂わせて

席を立ち、部屋を出て行った。

継父と僕、二人きりの居間に胡乱な雰囲気が漂う。

そんな空気には一切配慮せず、テレビからは

馬鹿げた音声が流れ続けていた。

継父が重い口を開いた。

「なあ、駒。

 今年、何歳になるんだ」

「……2×歳」

「そうか」

もう立派な年頃だな、と、継父は最後まではっきり言い切らず

口の中でもごもご言わせながら話した。

再び重苦しい沈黙の間が訪れた。

「……なあ、駒」

継父はテレビの電源を切った。

居間が完全な静寂に包まれる。

「もう、時間が経ったんだ。

 歳月ってのは早いもんだよな。

 あっと言う間だった」

僕はただ、マグカップに半分以上残ったコーヒーを

見つめていた。

「もうお前と暮らしていた時間よりも、

 母さんと二人きりで暮らした時間の方が

 長くなって来てるんだ」

僕は話は聞いていたが、相槌は打たなかった。

僕に構わず継父は話を続ける。

「母さんとの間に子供は恵まれなかった。

 だが、二人だけで上手くいっているし、

 毎日つつがなく暮らしているんだ。

 これからも、二人で互いに支え合って

 生きていくつもりだ。

 それで、これからも上手くいくと思ってる。

 だから――」

だから、二人にしてくれないか。

継父は小さく言った。

「もう、来ないでくれないか」

僕は、特に何の感慨も無く答えた。

「解った」

2階の自室に戻り荷物を纏めて、

簡単な身支度をして家を出る準備をした。

1階へ下り、不意に台所へ近付き室内を覗き見ると

母がダイニングテーブルに肘をつき項垂れて

座っているのが見えた。

何も声は掛けなかった。

靴を履く。

玄関の扉を開けて振り返ったが、

誰も見送りには来なかった。

当然だ。

駅への道程に嵩兄ちゃんの家がある。

立ち寄ってインターフォンを押そうかと思ったが、

止めて置いた。

元旦早々、こんな縁起の悪い顔なんて

誰にも見せられない。

夜空の星が東京より綺麗に見えるような気がして

腹立たしくてならなかった。

駅に着いたと同時に東京行きの電車が発車してしまい、

何十分も寒いホームで待ちぼうけを食らう羽目になった。

ようやく電車に乗って2時間近く。

やっと東京に着いた。

最寄り駅まで戻らず、乗り換え駅の新宿で下車して

普段より重い荷物を手にしながら二丁目へ向かった。

元旦の二丁目は閑散としていた。

昨日の大晦日のカウントダウンで大騒ぎして、

元旦は皆家に引っ込んでいるのかも知れないと思った。

『F』に行こうかと思ったのだが、

もしかしたら元旦でやっていないかも知れないと思ったのと、

仮に開いていて行ったとしても、腹立たしい事を

言われるのが関の山だと思い至り、

寒風吹き荒ぶ中、徒に街を彷徨った。

ローソンでスーパードライの500ml缶を2本買い、

店を出てすぐの所で缶を開けて飲んだ。

エビスとは違って、キレと刺激の強いいつものビールが

喉に流れ込んで来た。

凍て付く様に寒かった。

でも、今の僕は凍て付いても良いとすら思った。

惨めで、無様で、情けなくて、みっともなかったから。

自分自身が。

一缶飲み干した所で、急に激しい感情に全身を支配されて

思わずその場で蹲った。

生まれて来なければ良かった。

死んでしまいたかった。

僕にはもうどこにも帰る場所は無い。

居場所だって無い。

愛してくれる人も居ない。

何も無い。

自分の腕で自分の身体を強く抱き締めた。

この日の事は、嵩兄ちゃんには話していない。

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