僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

目の前であなたは優しく笑ってみせるけど

今日は休みで、久し振りに一人で街へ出た。

あいにくの曇り空で雨が心配だったが、新宿へ行った。

特にあてもなく、ぶらぶらと色んな店を冷やかして回った。

買う物も無かったし、そもそも金が無いので特に何かを買う事は無かった。

西口のヨドバシカメラから見始めて、徐々に下っていく形で

新宿駅東南口のフラッグスを見て、ビックロへ寄って、

H&Mで服を見た。

その後、そのまま流れで

夕方の新宿三丁目の路地をうろついていたら、

どこかで見覚えのある顔と擦れ違った。

誰だったろう、と振り向くと同時に向こうもこちらへ振り返り、

お互い目があった瞬間、その顔が誰だったのかを思い出した。

僕が東京に出て来てすぐに始めたアルバイトの居酒屋にいた、

社員の林田さんという男性だ。

向こうも気付いたらしく、小さくあっと言う声を発した。

「林田さんですよね?」

「駒くん……だよね?

 昔、店に居た」

「そうです。ご無沙汰してます」

「うわあ、懐かしいなあ! 何年ぶりだろ?

 今何やってんの?」

「まあ、事務関係で。

 林田さんは?」

「俺は今エリアマネージャーやってるよ。

 丁度この区域の。

 それで店にはもう出てないんだ。

 いやいや、元気そうで何より」

実の所そう元気でも無い訳だが、

お陰様で、と答えた。

僕は東京に出てきてから1年半程、

近所のチェーン系列の居酒屋でアルバイトをして食いつないでいた。

その時、店の社員で一緒に働いていたのがこの林田さんだ。

不器用で要領も悪い僕を率先してフォローしてくれて、

良くお世話になったものだった。

「駒くんさ、もし時間あるんだったら一杯どう?

 すぐ近くに店あるし。

 系列店だから、安くなるよ」

林田さんは眩しい笑顔で言った。

林田さんは居酒屋の社員という、はっきり言って過酷な激務の中でも

常に笑顔を絶やさない、爽やかで素敵な男性だ。

人柄も良く、18、9歳当時の僕は強く心惹かれたものだった。

そんな林田さんからのお誘いとあれば、断る理由などどこにあるだろう。

「はい、是非ご一緒させてください」

「とりあえず、生二つ」

林田さんと店に入り、席に着いた。

正直僕は余り話題を持ち合わせていなかったが、

林田さんが率先して色々な話を振って来てくれたので

お互い沈黙して気まずくなる事は無かった。

林田さんと話している内に、

18、9歳当時の気持ちが徐々に蘇ってきた。

当時は林田さんと二人きりになるだけで

どきどきしたものだった。

それは今でも変わらず、林田さんに真っ向から瞳を見据えられると

思わず照れくさくなって視線を外してしまう。

当時抱いた、淡い恋情が胸を埋め尽くす。

「……林田さんは、今お一人なんですか」

「それって付き合ってる人居るかって事?

 居ないよ。駒くんは?

 好きな人とか居ないの?」

「えっと……特に居ないです」

「そっかぁー」

林田さんは僕を見つめて言う。

「駒くん、かわいいのにね。勿体ないよ」

かわいい、と言われ、急激に顔が熱くなる。

当時のどきどきする気持ちがこみ上がって仕方ない。

しかし、どんなに恋情を募らせたところで

相手はノンケなのだ。

当時も何度と無く自分に言い聞かせたが、

僕の想いが成就する事は無い。

今、僕に向けられている笑顔は

林田さんの持ち合わせた優しさによるもので、

好意やまして恋情によるものでは決して無い。

それがどんなに優しくて、心焦がさせるものであったとしても。

「駒くんはかわいかったから、

 あの頃は本当に働き甲斐があったよ。

 ドジだしぶきっちょだったけど、

 そこがまた愛おしくて堪らなかったね」

「――そんな事言われたら、

 林田さんの事好きになっちゃいそうです」

「いいよ、好きになって。俺も駒くんの事好きになっちゃおうかな」

僕は笑って誤魔化した。

胸を埋め尽くす、この想いすら。

林田さんは、どこまでも優しい笑顔で

微笑んでいる。

優しさは、思い出のままでいい。

僕の恋は、誰かを傷付けたり、誰かの記憶を汚すから。

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