僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

僕が死のうと思ったのは  その2

「亘さん……」
 
「駒ちゃん! こんなとこで何してんの?
 ってこんなずぶ濡れで、傘無かったの?」
 
「……はい」
 
「あーあ、こんなに濡れちゃって。
 仕方ないなあ」
 
亘はスーツのポケットからハンカチを取り出すと、
僕の頭から身体まで拭いてくれた。
亘の厚意は有難かったが、ただただ亘のハンカチが濡れてゆくだけで、
僕の濡れた身体にはあまり効果を成さなかった。
「寒いでしょ? なんかあったかいもの飲む?」
 
「あ、はい。ありがとうございます。
 あの、亘さんはどうしてこんなとこにいらしたんですか」
 
「それはねぇ、ここにしか売ってないネクターを買いに来たんだよ。
 そしたら隙間に駒ちゃんが挟まってんだもん。驚いたよ」
 
亘に暖かいミルクティーを買ってもらい、亘もお目当てのネクターを買って
それをロビーにあるオープンスペースで飲む事になった。
僕は多少の居心地の悪さを覚えたが、
幸い周りには人が誰も居なかったので、人目を気にせずに済んだ。
 
「で、改めて聞くけど、今日はどうしたの?
 もしかして俺に会いに来てくれた?」
 
亘は悪戯っぽく笑ったが、僕の言葉によって
すぐにその表情は翳る事になる。
 
「自殺しようと思って。飛び降りて。
 どうやったら屋上に出られるかな、って」
 
先程とは一転し、トーンが低く険しい声で亘は訊いてきた。
 
「なんで?」
 
「なんででしょうね」
 
「いや、はぐらかすなよ」
 
「はぐらかしてないですよ。
 自分でも良く解らないんです」
 
しばらく気まずい無言の間が続いた。
 

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亘が思い切ったようにネクターを飲み干し、立ち上がった。
 
「それ、飲んだか」
 
「あ、はい」
 
自分も慌ててぬるくなったミルクティーを飲み干し、立った。
 
「来い」
 
亘は力尽くで僕の左手首を掴んで引っ張った。
思わず足をもつれさせて転びそうになった。
 
亘は僕の手首を掴んだまますごい速さで歩き始めると、
xxタワーの受付へ向かった。
何やら適当な理由をつけて僕の入館証を用意し、僕の首に掛けさせた。
 
入館証をゲートにかざし、ゲートを抜けてエレベーターに乗り込む。
その間も亘は僕の左手首を決して離さなかった。
 
亘のオフィスに着いた。
亘は自席へ辿り着くと、ようやく僕の手首を離した。
帰り支度をしている。ノートPCと大きな手帳を鞄にしまい、
机に散らばっていた書類を片付けた。
 
それが終わると、再び僕の左手首を掴み、また歩き出した。
傘立てから黒い大きな傘を取り、再びエレベーターへ乗り込み
1階へと向かう。
受付で僕の入館証を返却すると、強い力で僕の腕を引き
S×駅へと僕を連れて行き、電車に乗せた。
 

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「……どこ、行くんですか」
 
「MJ駅。俺ん家」
 
「……なんでですか」
 
亘は険しい表情をしたまま何も答えない。
しかし、数駅を乗り続けたところで、亘は突然いつもの調子で言った。
 
「腹減ってるだろ。なんか食いたいもんある?
 なんでも好きなものでいいよ」
 
態度を急変させた亘に面食らった僕は、中々思い浮かばなかったが、何とか答えた。
 
「じゃあ、ピザ……ですかね」
 
「それはちゃんとしたイタリアンの? それとも宅配の方?」
 
僕は生まれもそこまで裕福ではなかったし、現在進行形で貧乏なので、
サイゼリヤを除くイタリアンはおろか、宅配のピザも滅多に食べた事が無かった。
 
「ああ、でもこんなに濡れちゃってるし、
 先シャワー浴びちゃった方がいいな。風邪引く前に。
 宅配にしよっか」
 
「そ、そうですね」
 
それきり亘は再び沈黙してしまった。
 
MJ駅に着いた。電車を降り改札を出て、
亘に腕を引っ張られるがままに道を進むと、5分もしない内に
亘のマンションに着いた。
立派なマンションだ。高級マンションと呼ぶに相応しい外観にエントランス。
駅からも近く便利だろう。
 
僕が関心してる暇もなく亘に連れられ、
あっと言う間にエレベーターに乗り込ませられた。
流石にここまで連れ込めば気が済んだのか、
ようやく亘は僕の腕を離した。
 
思い切って訊いてみた。
 
「あの、亘さん。どうしてずっと僕の腕を――」
 
「絶対逃がさない為だよ」
 
亘はぽつりと呟いた。それが余計に力強い意思表示の様に感じられ、
何故か僕は戦いた。  (続く)

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