僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

僕が死のうと思ったのは  その3

エレベーターが最上階に着いた。
亘の後ろを歩いていく。
角部屋の前で亘は立ち止まり、鍵を開けた。
 
「さ、狭苦しい部屋ですが、どうぞ」
亘は扉を開けたまま、僕を中に入るよう促した。
「あ、はい、お邪魔します」
亘と共に靴を脱ぎ、部屋へ入ると驚いた。
その広さとハイセンスな家具の数々。
 
玄関の広さからしてすごい部屋なのだろうなと予想はしていたが、
これ程広くてお洒落だとは思いもしなかった。
 
驚いている僕を察したのか、さも自慢げといった様子で亘は言った。
 
「へへ、どうよ? シャレオツでしょ」
 
「はい。すごく素敵です」
 
「俺さ、UNICOってとこの家具が好きで、殆どそこの家具で統一させてんだよね。
 ベッドだけは違うけど」
 
「それじゃあ、ベッドは?」
 
 
凄まじくて頭がクラクラしてきた。
 
「あとね、前まではこたつ出したりしてたけど、
 処分してソファとローテーブルにしちゃった。ラグも新しくしてさ。
 丁度先週届いたとこだったんだよ。
 いやあ、タイミング良かったなぁ」
 
部屋中の間接照明を点けて回りながら亘は言った。
 
「そうだ、早速シャワー浴びないとね。
 本当は風呂にお湯張ってあげたいところだけど、それ待ってたら風邪引いちゃうし。
 服もすぐ洗っちゃうから、脱いだやつ全部黒いカゴの中に入れておいて。
 タオルと着替えは洗濯機の上に置いとくから、それ使って」
 
「えっと、ありがとうございます……何から何まで」
 
「大丈夫、後でカラダで払ってもらうから。
 何ならシャワーも一緒に浴びよっか?」
 
にやついてみせる亘をスルーして、僕はシャワーを浴びに浴室へ向かった。
 
服や下着を全て脱ぎ、言われた通りに黒いカゴへ入れ、
浴室に入りシャワーを浴びる。
雨に濡れて冷え切った体に暖かい湯が心地良い。
 
早速シャンプーを借りようと浴室の棚を見てみると、
全てがロクシタンとかいうブランドもので統一されていて、
使用するのが躊躇われた。
 

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結局ロクシタンの製品を借りてシャワーから上がると、
既に濡れた服の全てが洗濯機で回されている様だった。
 
洗濯機の蓋の上に載っているバスタオルで全身を拭き、
亘の物であろうパジャマを着た。
だが、サイズが大きすぎる。
当然だった。
僕が身長164センチなのに対して、亘は身長が187センチもある。
袖も裾もだぼだぼだった。
 
とりあえず裾だけは捲り、袖は後でいいや、と思い、
最初に通されたリビングへ戻った。
 
「シャワー、ありがとうございました」
 
スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを解きソファでくつろいでいた
亘が歓声を上げた。
 
「おお! 彼シャツってやつじゃん!
 たまらん」
 
僕は亘の感想に苦笑して亘の隣に座った。
 
「けど、だいぶ不便そうだな。
 今度駒ちゃん用のサイズのも用意しとくよ」
 
僕は曖昧に頷いておいた。また来る機会があるというのか。
 
「俺もシャワー浴びてくるわ。その間にそこにあるピザーラのチラシの中から
 食べたいピザ選んでおいて。俺は何でもいいからさ」
 
声のトーンを落として亘は続けた。
 
「……一応言っとくけど、ベランダには出んなよ。
 あと、窓も開けんな」
 
確かにこの部屋から飛び降りれば確実に死ねるだろう。
 
「解った?」
 
「はい、解りました」
 
僕は亘の気迫に負けて、すっかり死のうとしていた気持ちが萎えていた。
それが亘にも伝わったのか、多少安心した様子で
亘はシャワーを浴びに浴室へと消えていった。
 

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こうして初めて亘の部屋に連れ込まれてしまった訳だが、
これで本当に良かったのだろうか。ぼんやり自問自答する。
しかし、『F』の店の奴らがもしこの事を知ったら
全員嫉妬で発狂しそうだと思ったら少し笑えた。
 
買ったばかりと言うUNICOのキャメルカラーのレザーソファに深く座り、
仕方なしにピザーラのチラシをめくる。
成り行きとは言え、チラシを見てみればどれもおいしそうだ。
とろける4種チーズの極旨ピザか、モントレーのミートソース味が食べたい。どちらにしようか。 
 
迷っている内に亘がシャワーから戻ってきてしまった。
Tシャツにスウェットパンツというラフな出で立ち。
そう言えば、スーツ以外の亘の姿を見るのは初めてかも知れない。
 
「食べたいやつ、決まった?」
 
「えーと、それが2つあって悩んでて」
 
「2つ? それなら2つとも頼んじゃおうよ」
 
「えっ、でも、食べきれないし、悪いですよ」
 
「いーのいーの。残った分は冷凍しとけばいいだけだから。
 んで、どれとどれ?」
 
僕は困惑しながらも、迷っているピザの2つを伝えた。
 
「了解。早速注文しよっか」
 
もしもし、と、とんとん拍子で亘はオーダーしていく。
2つもあるのだからMサイズで十分な筈なのに、2つともLサイズにしていた。
 
電話を終えると、亘は冷蔵庫からビールを2缶取り出して
カウンターキッチンの前に置かれたダイニングテーブルに置いた。
 
「駒ちゃん、こっちおいで。
 こっちじゃないとピザ置けないからね」
 
ソファは座り心地は良いが、確かに飲み食いには不便かも知れない。
腰を上げてダイニングテーブルまで移動して席につく。
ビールの銘柄は僕の愛飲しているアサヒのスーパードライで嬉しかった。
 
ピザはまだ来ていないが、とりあえず一杯、と乾杯した。
 
「あー、やっぱいいなあ、こういうの。
 それに金曜の夜に駒ちゃんとこうして過ごせるなんて夢みたいだよ」
 
「何言ってるんですか。毎週金曜の夜は『F』じゃないんですか」
 
『F』なんか最近全然行ってないよ。
 確かに楽しいけどさ、疲れるんだよな。あの店。
 なんか良くないオーラ? みたいなもんを感じるっつうか……。
 駒ちゃんも来ないしさ。
 けど、もし毎週こうして駒ちゃんが家来てくれたら
 俺すげぇ嬉しいけどなあ」
 
「はあ……そうですか」  (続く)
 

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