僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

僕が死のうと思ったのは  その4

「ねね、ちょっとこっち来て」
 
そう促され、亘の方へ席を詰めた。
亘はまだ乾き切っていない僕の髪の毛の匂いを嗅いで言った。
 
「おっ、俺とおんなじ匂いになったね。
  なんか、エロい」
 
「何がですか。そりゃ同じシャンプーとか石鹸使えば
 同じ匂いになるでしょう。それの何がエロいんですか」
 
馬鹿真面目に答える僕に、亘はけらけら笑った。
そうこうしている内に、ピザが届いた。
自分も代金を支払おうと財布を出したが、
当然の様に亘に制止されてしまった。
ピザの箱をダイニングテーブルに置き、亘が僕の耳許で囁いた。
 
「だからさっきも言ったろ?  カラダで払ってもらう、ってさ」
 
同じ内容ではあったが、先程とは全く異なった、甘く掠れた声。
流石の僕でも顔が火照るのを感じた。
 
2本目の缶ビールを開けて、ピザを食べ始める。
思いの外二人とも腹が減っていたのか、
結構な量を平らげてしまい、ピザは数切れぐらいしか残らなかった。
 
亘から歯ブラシを貰って、歯を磨かせてもらい、部屋に戻ると
天井の照明は消されており、部屋は間接照明の明かりだけになっていた。
ソロのジャズピアノの音楽が控えめな音量で部屋に流れている。
 
 
「解んの? さっすが駒ちゃん!」
 
僕がソファの隣に腰掛けると、亘も歯を磨いてくると言って洗面所へ向かっていった。
行儀が悪いとは思いながら、ソファに横になった。
これが中々に快適で、流石高いだけあると思った。
 
亘が戻ってきた。僕が上体を起こすと、亘は僕の背中を右手で支え、
左手を僕の膝の裏に差し込むと、そのまま自分の胸に寄せるように持ち上げた。
所謂お姫様抱っこだ。しかし驚いたのは亘の方だった。
 
「めっちゃくちゃ軽い! お前、ちゃんとメシ食ってんのか~?」
 
「あの……恥ずかしいんで止めて欲しいんですけど」
 
「止めないよ」
 
亘はそのまま寝室へと僕を運び、ベッドの上にまるで割れ物を置くかの様に
そっと僕を降ろした。
今までスーツ姿の亘しか見た事が無かったから気付かなかったが、
こうして薄着で触れてみると、意外と亘の身体はがっちりとした硬い筋肉に
覆われているのだなと思った。
 
ベッド脇に置かれたサイドテーブルのライトを点けて、
亘は僕の隣に横たわった。
 

f:id:komadiary:20170926081337j:plain

 
しばらく僕達は無言で見つめ合った。
目の前では端整な亘の顔が優しく甘く微笑んでいる。
 
亘が訥々と囁く。
 
「俺さ、家に連れ込んだヤツとは何もかもすっ飛ばして絶対ヤってたんだけど、
 駒ちゃんとはその――ちゃんと段階踏んでから、そういう事したいと思ってるんだ」
 
「はあ」
 
「だから、今夜は、一緒に寝るだけ」
 
亘は僕を自分の胸元に抱き寄せると、僕の額に軽くキスをした。
僕がゆっくり顔を上げると、今度は唇にキスをした。
最初こそ先程と同じように軽く優しいものだったが、徐々に激しくなっていった。
僕の口腔内に亘の舌が入り込んでくる。
甘く激しく、蕩けてしまいそうだった。
 

f:id:komadiary:20170926081409j:plain

 
亘の唇が離れた。
 
亘はしばらく考えるような、悩むような素振りをしていたが、
思い切ったように口を開いた。
 
「どうして、死のうだなんて思ったの」
 
「ああ……」
 
今晩は亘に色々され過ぎて、当初の目的をすっかり忘れてしまっていた。
 
「別に、昨日の今日に始まった訳じゃないんですよ。
 僕はずっと昔から、今この瞬間も、死にたいと思ってます。
 だから、理由なんてありません」
 
亘はとても悲しそうな顔をした。
 
「でも俺は――俺はさ、嫌だよ。駒ちゃんが死んじゃったりしたら」
 
掠れた声。亘の瞳を見つめていて驚いた。
その瞳に水分量が増して行くのを認めたから。
 
涙を堪えている亘を眼前にして、何も言えずにいた。
言葉の代わりに、抱き返してあげた。
 
「駒ちゃん、駒ちゃん、
 どこにも行かないで。死んだりしないで」
 
亘も僕を力強く抱き締めた。
この夜初めて、僕は亘を愛おしく思った。
 

にほんブログ村 セクマイ・嗜好ブログ 同性愛・ゲイ(ノンアダルト)へ