僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

雨と夢のあとに  その1

甘い香りで目を覚ました。幸せな目覚めだった。
今何時だろう。
テンピュールのベッドがあまりにも心地良かったからか、
それとも亘の胸に抱かれて寝たのが心地良かったのか、
随分と寝坊してしまったようだ。
 
ベッドから抜け出しリビングへ向かうと、
亘がキッチンに立って何か料理をしていた。
「おはようございます。
 ……寝過ぎちゃって、すみません」
 
「おお、やっと起きたか。もうお昼だよ」
 
壁にかけられた洒落た時計に目をやると、
丁度12時半になったところだった。
 
「でも良いタイミングだったよ。
 もうすぐ出来るから、顔洗っておいで」
 
亘に促され、顔を洗ってリビングへ戻ると、
亘が皿にホットケーキを盛り付けている。
それもとても良い色をした、厚みのあるホットケーキだ。
 
「おいしそうですね」
 
「もちろん!  俺の得意料理よ。
   その辺の店になんか負けないぐらい美味いからな」
 
亘はにこにこしながらホットケーキを盛り付けていく。
窓の外に目をやる。
曇り気味だったが、昨日僕を濡らした雨は止んでいた。
その間にも、亘はテーブルに色々と広げていく。
バターにメイプルシロップにナイフとフォーク、2人分の紅茶。
 
「ほら、出来たよ。冷めない内に食べよう」
 
「ありがとうございます。いただきます」
 
まずバターを塗って、切り分けてからメイプルシロップをかけ、
一片を口に運ぶ。
口に入れた瞬間、じゅわっとメイプルシロップが広がり、
ホットケーキの旨味とバターとが混ざり合う。
甘くて、でも嫌味がない甘さで堪らない。
 
「めちゃくちゃおいしいです!」
 
亘は微笑んで答えた。
 
「良かった。駒ちゃんに喜んでもらえて嬉しいよ」
 
亘の作ったホットケーキはそれはそれは美味しくて、
あっという間に平らげてしまった。
 
「ご馳走様でした。
 なんかご馳走になってばっかりで悪いんで、
 お皿洗いますよ」
 
「いや、気にしないでいいよ。食洗機もあるし」
 
そう言うと亘はまだ紅茶が残っているカップは残して
それ以外は全てキッチンへ持って行ってしまった。
 
「あ、そう言えば、駒ちゃんの服だけど、
 昨夜浴室乾燥機かけたから乾いてると思うよ」
 
「ありがとうございます。取って来ます」
 
いつまでもこのオーバーサイズのパジャマを着ている訳にもいかない。
早速浴室へ取りに行って着替え、リビングへと戻った。
 

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ぬるくなった紅茶を飲み干し、そろそろお暇しようかと
思っていた矢先、亘が訊いてきた。
 
「駒ちゃん、今日ヒマ?」
 
「特に予定ないですけど」
 
「それじゃあさ、今日一日付き合ってよ」
 
「何にですか」
 
「デート!」
 
そんな事だろうと予想していた。
本当はそろそろ家に帰ってオナニーがしたかったのだが、
これだけ世話になっておいて容易く断る事も出来ない。
だから、僕にしては珍しく、努めて明るく笑顔で快く答えてやった。
 
「いいですよ。どこでもご一緒します」
 
「やった!  それじゃあどこ行こうかな~」
 
亘は無邪気に喜びながら、早速スマホで行き先を探し始めた。
その横顔は本当に嬉しそうだ。
僕はその横顔を眺めながら、僕のどこが良いのだろうと考えていた。
 
僕は最低な人間だ。
何度人を傷付けたか解らないし、何度逃げ出して来た事かも解らないし、
多くの人達を裏切って生きて来た
何か特技がある訳でもなく、学も無い。
見た目だって良くない。しかも金まで無いと来たものだ。
 
こんな僕に心動かす亘は一体何を考えているのだろうか。
 
「亘さん」
 
「ん、なあに?」
 
「今、何考えてますか」
 
「おお、それ訊いちゃう?
 駒ちゃんの事だけだよ」
 
「疲れません? そんなの」
 
「いいや、全然」
 
そう言うと、亘は再びスマホに目を移して
『デート』のプランを練り始めた。
 
「よし! 決めた。×B駅まで出て、水族館見に行こう。
 駒ちゃん確か水族館好きだったよね」
 
亘の最寄り駅のMJ駅から数駅先の繁華街、×B駅に出る事になった。
さっきまでラフな姿をしていた亘は、
身だしなみを整え服も着替えると小奇麗にまとめて出て来た。
僕の格好を見て亘は言った。
 
「駒ちゃん、ちょっと肌寒くない?」
 
「確かにちょっと羽織るものが欲しいかも知れないですね」
 
「俺のだとサイズ合わないしなあ……。
 水族館行くついでに、×B駅の近くでそれも見てみよっか」
 
こうして亘のマンションを後にした。
 

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亘の最寄駅であるMJ駅から数駅。
×B駅に降りるのは初めてかもしれない。
亘は×B駅の改札を出るなりPARCOへ向かった。
亘の後ろをついて歩き、到着したのはHysteric Glamourという店だった。
田舎者で貧乏な僕は初めて入る店だった。
 
亘はまずロゴの刺繍やワッペンが付いた茶色の長袖シャツを
僕の肩に当て、よし、と言うと店員を呼んだ。
呼び止められた男性店員が感じよく応えた。
 
「これ、持ってていただけますか」
 
口調は丁寧だが、尊大な態度だった。
 
また、亘は僕の服を選ぶと言うのに僕の意見は
全く聞く耳を持っていないという様子だったので、
僕はただ亘に合わせて店内を歩いて回った。
 
「インナーも買わないとね」
 
そう言って、今度は数ある中から半袖Tシャツを選び出した。
これぐらいは僕に選ばせてくれてもいいのではないかと思ったが、
亘の気の済むまで付き合おうと、何も言わなかった。
 
やっぱ着やすい黒だな、と言って、
大きくプリントの入った黒いTシャツを選び、
店員に持たせた。
 
「おお、これこれ」
 
亘は嬉しそうにそう言うと、
スタッズが沢山ついた黒いカーディガンを取って僕の肩に当てた。
 
「うん、こういうの、駒ちゃん似合うと思うよ。
 カッコいい」
 
最早無言で店員にそれをまた持たせると、
隣に陳列されてあったフルジップのグレーのパーカーを
眺めながら亘が言った。
 
「駒ちゃんさあ、パーカーってどんくらい持ってる?」
 
「確か1枚くらいだと思いますけど……」
 
「それじゃ、もう1枚ぐらいあった方が便利だよね」
 
そう言うと、そのパーカーを取り、また僕の肩にあわせ
店員に持たせた。
 
「駒ちゃん、ウエスト何インチ?」
 
「インチ……?」
 
「うん」
 
「僕、S・M・Lでしか服買った事無いんで……解りません」
 
「んじゃ、いい機会だから測ってもらおうよ」
 
亘は店員に目をやる。店員は、少々お待ちください、と言って
ポケットからメジャーを取り出した。
そして僕のウエストを測り、僕ではなく亘に告げた。
 
「こちらの方のサイズでしたら28インチでジャストかと思いますが、
 本当にジャストなので、もし窮屈に感じられる様でしたら
もうワンサイズ上の29インチでも宜しいかと……」
 
「じゃ、これの28と29両方穿かせて。
 あと他のも全部着させて」
 
亘が手に取り店員に渡したジーンズは、所謂今流行りの
クラッシュドデニムとか言う物だった。
これもまた洒落ていて、ポケットの入り口にスタッズが施されている。
 
亘と店員に促されるまま服を全部受け取り、僕は試着室で
下着以外の全ての服を脱いだ。
 
亘はまるで僕を着せ替え人形のようにしているが、
それも亘のデートでの楽しみと言うのなら
付き合ってやる必要があると思いながら着替えた。
 
Tシャツも長袖シャツも、パーカーもカーディガンも
サイズはジャストで問題無かった。
問題はジーンズの方で、28インチなら確かにジャストサイズだが、
本当にピッチリ過ぎてちょっと窮屈だ。
29インチだとベルトがないと下がってきてしまうが、
こちらの方が履き心地が良かった。
 
カーテンを開けて、その旨を亘と店員さんに伝えた。
 
「そうですね、29でもシルエット的には問題ないかと……」
 
「それじゃあ、29インチで。
 これ全部ください。
 あ、これこのまま着ていくんで、値札切って、
 脱いだ服は袋に入れてもらえますか。
 あ、あと駒ちゃん、パーカーとカーディガン、
 どっち着ていく?」
 
「え、じゃあ、カーディガンで」
 
「じゃあこっちのパーカーも一緒に包んでください」
 
「かしこまりました。少々お待ちください」
 
店員はそう言うと、レジカウンターから鋏を取ってきた。
 
「それではお客様、失礼致します」
 
僕が来ている服の値札が店員の手によって切られていく。
そして亘は店員に促され、レジへと向かっていった。
僕もその後を追う。
 
「合わせまして合計が――」
 
提示された金額はとんでもない額だった。
思わず、えっ、とでかい声を出してしまった。
 
亘はどうという事でもない顔をしていた。
 
「カードで。一括で」
 
そう言い亘が取り出したのはゴールドカードだった。
 
「亘さん、こんな高い服……!」
 
「あれ、言わなかったっけ?
 かわいい子に服買ってあげるのが俺の趣味なんだよ」
 
「それにしたって、高すぎますよ。大体かわいくないですし」
 
にやにやしながら亘は言った。
 
「まあ、デートの最後にはカラダで全部払ってもらってるからね」
 
「……なんか、亘さんの言う『カラダで払う』って、
 臓器でも売らせるんですか」
 
亘は笑った。
 
「ま、昨日も言ったけど、俺、駒ちゃんとは
 ちゃんと順序を踏んでそういう事したいと思ってるから。
 カラダで払ってもらうってのは冗談だよ。
 ぶっちゃけると、俺、お気に入りの子に
 自分の好きな格好させるのが好きなんだ。
 だから金の事は本当に何にも気にしなくていいよ」
 
とは言え、こんな金額。僕が1ヶ月働いても
支払えるかどうか解らない程の額だった。
値札も切られてしまった以上、今更返品も出来ない。
 
だが、デートに付き合うと言ったのは僕だ。
この額を支払うと言うのも亘のやりたい事なら
付き合ってやろうと思う。
しかし、近い内に何かお礼をしないといけないな、と思った。
 
上から下までハイブランドの新品に身を包んだ僕を眺め、
亘は満足そうにしていたが、ふと僕の足を見て、言った。
 
「そろそろその靴もダメそうじゃない?」
 
確かに今履いているNIKEAIR FORCE1は、
いい加減磨り減り過ぎて踵の所に穴が開きつつあった。
 
「次は靴だな」
 
「……水族館の事、忘れてません?」
 
「大丈夫。ちゃあんと水族館も連れてってあげるから。
 もうちょっとだけ付き合ってね」
 
「安い靴にしてくださいね」
 
亘は、ははっと笑うと、次の店へと向かって歩き出した。  (続く)
 

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