僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

雨と夢のあとに  その2

大きい通りを進み、東急ハンズの直前にある角を曲がった細い道を少し行った所にある、
Dr.Martensというブランドのブーツの店に入る。
亘は迷う事なくイングランド製と言う黒いブーツを手に取り、
僕に尋ねた。
 
「駒ちゃんって、靴のサイズ何センチ?」
 
「26センチですけど」
そう言いながら横目で値段を見る。
4万5千円もするブーツだ。
しかし僕は最早値段を気にしなくなっていた。
いちいち驚いていたら身が持たない。
 
早速亘は店員を呼び、26センチのものを出すよう店員に求めた。
僕はすぐ履けるようにと、置かれてあった椅子に腰掛け、
踵に穴が空きかけたAirforce1を脱ぎ始めた。
 
丁度脱ぎ終えたタイミングで店員さんが26センチの物を
持って来てくれた。
 
「これまでずっとスニーカーで、ブーツを履くのは
 生まれて初めてかも知れないです」
 
「ほんと? だとしたらこのブーツは良い一足目になると思うよ。
 マーチンは履き易いし、長持ちするからね」
 
スニーカーと比べて脱ぎ履きする手間は掛かるが、
亘の言う通り、このDr.Martensと言うブランドのブーツは、
非常に履き心地が良かった。
 
「サイズ感はいかがでしょうか?」
 
「丁度良いです」
 
店員さんが念のため僕の足の爪先を揉んで確かめる。
 
「ほんの少しだけ余裕を持たせてありますので、
 これでしたら足がむくんで来ても痛くならないかと思います。
 本当にぴったりのサイズですよ」
 
「じゃ、これで。
 このまま履いて行きたいので、
 古い靴を箱に入れてもらって、タグも切ってもらえますか」
 
「承知しました。ではあちらでお会計を」
 
再び亘に買ってもらい、店を出た。
 
「なんか……すみません」
 
「だから、気にすんなって。
 俺の趣味だからさ。
 それより喜べ! やっと水族館だよ」
 
ようやく僕が心待ちにしていた水族館に着いた。
年甲斐もなくチケット売り場でそわそわする。
 
「あ、見て見て!
 2回分の入場料金で年間パスポートが買えるって!」
 
「本当ですね。いいなあ、買っちゃおうかなあ」
 
そう僕が呟くよりも先に、亘はチケット売り場で
 
『年間パスポート、大人二人分ください』
 
と言っていた。
 

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写真を撮られ、少し待つと
僕と亘用の年間パスポートが出来上がった。
 
早速入場し、色んな水生動物や魚を見て回った。
ここは葛西臨海公園の水族館と違い、少し手狭な分、
エンターテイメント性に富んでいるように思った。
色々な魚や水生動物が、アイディアに富んだ様々な手法によって
普通では見られない角度から眺められ、実に面白い。
 
魚が泳ぐトンネルに見とれていると、亘が
しまった、と小さく呟き僕に言った。
 
「駒ちゃん、ごめん!
 荷物持たせちゃって」
 
「いえ、買っていただいたので、僕が持って当然ですよ」
 
「いやいや、無理矢理俺が買ったんだから、
 俺が持つよ」
 
そう言うと、亘は僕が手にしていた
Hysteric GlamourDr.Martensの袋を取り上げて
自分の手に持った。
 
「片方だけでも持ちますよ、両手塞がってたら不便でしょう」
 
「いいや、大丈夫だから」
 
歩みを進め、あまり人気の無い魚のコーナーについた。
薄暗い中、周りには人はぽつりぽつりとしか居ない。
 
「代わりにさ」
 
亘は少し屈んで、僕と同じ目線になった。
そして、囁く。
 
「キスして」
 
「えっ、こんな所でですか?」
 
流石に亘の要望とは言え、羞恥が拭えない。
 
「お願い、少しでいいから」
 
そう切なく囁く亘は本気だ。
 
仕方ない。
周りを良く見渡し、誰もこちらへ注意が向いていない事を
確認し、僕は亘に口付けた。
 
その瞬間。
 
「あー!」

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二人共びっくりして振り返ったが、
そこには誰も居ない。
と思いきや、足元に5~6歳であろう少女が
僕達を指差して立っていた。
 
「お兄さんたち、キスしてた~。
 男の人同士は、キスしたりしちゃいけないんだよ」
 
なんだてめぇこのクソガキが、喧嘩売ってんのか?
親はどこだ? ぶん殴ってやろうか?
思わず僕は口にしていたが、一方の亘はにっこり微笑み、
しゃがんで少女と目線を合わせて言った。
 
「この世にはね、しちゃいけない事なんて何も無いんだよ」
 
「そんな事ないもん! しちゃダメなんだよ」
 
「じゃあ、お姉ちゃんは知らない人から
 お菓子貰うのはいけない事だと思う?」
 
「うん。知らない人から
   お菓子貰ったりしちゃいけないんだよ」
 
こほん、と、改まったように亘は言った。
 
「ここに、とーってもおいしい飴があります。
 おいしいからいつもお兄さんは持ち歩いてます。
 こんなにおいしい飴だけど、
 本当に絶対貰っちゃいけないと思う?」
 
「いけない……と思う」
 
「本当の本当に? じゃあお兄さん食べちゃっていい?
 これで最後の1個なんだけどな~。
 でも、お姉ちゃんがダメって言うなら、食べちゃおうかな?
 すっごくおいしいんだよ、この飴」
 
少女は考え込んでいる。
 
「今、お母さんとお父さん近くにいないでしょ?
 なら、こっそり食べちゃうっていうのはどう?
 もしバレちゃっても、このお兄さんが無理矢理くれた、って言えば、
 お母さんにもお父さんにも怒られないと思うよ」
 
「……ほんとに怒られない?」
 
「うん。もし怒られたら、お兄さんが代わりに謝ってあげる。
 はい、手を出して」
 
亘は少女の小さな手にぽん、と飴を載せた。
早速少女は飴の包みを剥がして口に入れた。
 
「おいしいでしょ?」
 
「うん!」
 
「じゃ、お互い内緒にしようね」
 
「う、うん」
 
じゃ、バイバイ、と亘が言いかけたところに、
少女が慌てて付け足した。
 
「あの、ありがとうございます」
 
「お、良く言えたねえ。お姉ちゃんはお利口さんなんだね。
 走らないでゆっくり歩いて戻ってね」
 
亘に言われた通り、少女はゆっくり歩いてどこかへ消えていった。
 
「なんか言ってる事めちゃくちゃでしたけど、
 よくあんなクソガキうまく丸め込めますね」
 
「俺みたいな仕事してれば、子供の相手なんかどうって事ないよ。皆素直だから。
 むしろ大人の方が聞かん坊が多くて困るよ」
 
子供嫌いな自分には真似出来ない芸当だと思った。
 
それにしても大分驚かされたが、幸い
他に見ていた人は居なかったようで安心した。
 
一通り見終わり、水族館を後にし、どこかでお茶をしようと言う話になった。
珍しく空いているスタバを見つけ、そこに入る。
僕は普通のラテ。亘はキャラメルマキアート(の、エキストラソースとか言っていた)。
 
「いやー楽しかった。駒ちゃんとのデート」
 
「あんまりデートとか言わないでくださいよ。
 恥ずかしいじゃないですか」
 
「ん? 恥ずかしいって事は、周りから恋人同士だと
 思われそうだからって事?」
 
「そういう事じゃないですけど……。
 というか、やっぱり僕と亘さんじゃ釣り合わないですよ。
 主に、ルックス的に」
 
「そんな事ないのに。駒ちゃんはめっちゃかわいいよ。
 見た目だけじゃなくて、中身もね」
 
「中身?」
 
「うん。すっごく優しいから、人から優しくされるのが怖いんだね。
 素直になって傷付けられるのも怖くて、
 だからわざと憎まれ口叩いたり、
 人からの厚意を遠慮したりするんだ」
 
亘の言わんとしている事が今一掴めずに、僕はラテを啜った。
 
「ま、今はまだ解ってもらえなくても構わないよ。
 いつか俺が駒ちゃんの本当の姿を教えてやるから」
 
「はあ、そうですか」 (続く)
 

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