僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

新宿で天使が轢かれていた

狭い階段を上り、僕達は『F』の扉の前に着いた。
店に入る前に、犬飼さんに釘を刺しておこうと思った。
 
「犬飼さん、この店の中ではキスしたりしないでくださいね。
 お願いします」
 
「了解っす!」
 
すっかり機嫌を取り戻した犬飼さんは
元気良く返事をした。
 
扉を開けようとした瞬間、犬飼さんにその手を止められた。
 
「どうしたんですか」
 
「あの、ここでならいいっすか?」
 
僕が答えるよりも先に、犬飼さんは再び
僕の唇に吸い付いてきた。
先刻のもの程ではないが、激しい口付けだ。
僕の唇を舌で舐め、味わっているかのようだった。
唇を離し、僕をきつく抱き締めた。
 
「怒ってないっすか?」
 
誰も見ていないここでなら許してやろうと思った。
 
「もう慣れました」
 
それだけ言い残し、店内へ入った。
 
「こんばんは」
 
「あら、駒ちゃん、いらっしゃい。
 まあまあ、随分イケメン連れて来たわねぇ。
 どこで見つけたの」
 
「職場で知り合いました
 
「全然イケメンじゃないっす。犬飼っす」
 
「犬飼くんね。よろしく~」
 
「ママ、とりあえず座らせてもらってもいいですか」
 
「そうね。皆悪いけどつめてくれる?
 駒ちゃんがイケメン連れて来たわよ~」
 
店内に居た全員が色めき立ちながら、席をつめてくれた。
イケメンと聞いて皆そわそわしている。
 
亘が来ていないようでほっとした。
亘と犬飼さんを引き合わせたら
きっと大いに揉める事だろうと思っていたからだ。
 
「はい、おしぼり。っていうかなんで2人とも濡れてんの?
 寒そうだし、暖房入れようか?」
 
僕は確かに震える程寒かったので
是非お願いしたかったのだが、
犬飼さんが勝手に断った。
 
「大丈夫っす。自分は涼しくて丁度いいんで」
 
こいつ……と思ったが、口にはしなかった。
 
「飲み物どうする?」
 
「とりあえず、僕のボトルで。
 僕はアセロラ割りで。犬飼さんは?」
 
「ロックでいいっすか?」
 
「え、いいけど……大丈夫?
 駒ちゃん、彼潰れちゃわない?
 それにボトルもすぐ無くなっちゃうし……」
 
「彼、ザルらしいんで多分大丈夫だと思います。
 奢らせるつもりなんで何本ボトル空いても大丈夫です」
 
「え、俺、奢るんっすか?」
 
「奢らなくてもいいけど、そしたら僕、二度と犬飼さんと口ききません」
 
「ひどいっす~」
 
出て来たアセロラ割りに恐る恐る口をつける。
上客を連れて来たサービスかも知れない。
 
「そういえばこのお店は、カラオケ無いんっすね」
 
「そうなのよ~。一応、それが売りなの。
 静かに飲めるお店って少ないじゃない?」
 
僕が『F』で虐げられても贔屓にしている理由はそこにあった。
カラオケが無いからだ。
自分が歌うのも嫌だし、他人の歌を聞かせられるのも嫌いだ。

 

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「ねえねえ、犬飼くんって言ったっけ?
 彼氏とか居ないの〜?」
 
酔客が奥からでかい声で犬飼さんに呼び掛けた。
 
「彼氏はいないっすけど、好きな人はいます」
 
「え〜、それって誰? どんな人?」
 
「この方っす!」
 
そう言って犬飼さんは僕の肩に腕を回した。
 
店内が静まり返る。
 
しかし、その酔客は負けなかった。
 
「えー! そんな奴よりもっと良い人一杯いるじゃん!
 勿体無いよ〜」
 
全く余計なお世話だ。僕は無言を貫き、アセロラ割りを呷った。
 
「俺の好きな人disらないでください!
 本当に、……本当に好きなんっす。
 こんなに人を好きになったの、初めてっす。
 えへへ、なんか恥ずかしいや」
 
犬飼さんは、まあ、僕が好きなんだろうなとは
今夜確信しつつあったが、
まさかこんな形で愛の告白を受けるとは思わなかった。
 
しかし、僕を嫌う店子が茶々を入れた。
 
「でも駒ちゃん、とんだアバズレよ。
 亘っていうイケメンがこないだ話してたんだけど、
 全部奢らせたり、部屋泊まるくせにヤらせなかったり、
 服買わさせられたりで大変そうよ〜。しかもブランド品!
 やめときなさいよ、こんなの」
 
僕は何も弁明しなかった。
 
「なんすか、そいつ。
 駒さん、そいつとどんな関係なんっすか!?」
 
犬飼さんに激しく肩を揺すられ、仕方なく答えた。
 
「一応まだお友達ですよ。ただ、色々良くしてくれるんで――」
 
「でも、飲み屋で陰口触れて回るなんてサイテーじゃないっすか!」
 
「だって、まあ、事実だし……」
 
「ブランドの服って、どこのっすか!?」
 
「なんか、Hysteric glamourとか言うやつ」
 
「俺も同じ所で服買ってあげます!
 そいつに負けないぐらい!」
 
やはり亘が居ない日で良かった。
下手したら亘と殴り合いになっていたかも知れない。
 
「亘さんと張り合わなくたっていいですよ。
 亘さんには亘さんのいい所があって、
 犬飼さんには犬飼さんのいい所があるっていう、
 それだけの話でいいじゃないですか」
 
「いーや! 負けてらんねっす!
 その店、どこにあるんすか? 明日朝イチで行きますよ!」
 
「えっ……困ったな」
 
「で、どこにあるんすか!?」
 
「×Bの、パルコ……」
 

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朝10時。ようやくパルコの開店だ。僕は目をこすりながら
やっとか、と思いながら欠伸をした。
 
ここは×B。隣には『絶対に亘とか言うヤツよりも高い服を僕に買う』と
鼻息荒く意気込んでいる犬飼さんが居る。
犬飼さんに手を引かれ、Hysteric glamourへと連れて行かれた。
 
店に着くなり、犬飼さんは店員さんを捕まえた。
 
「この店で一番高い服ってどれっすか?」
 
「えーっと、それでしたら、今はこのライダースジャケットでしょうかね……」
 
もう好きにしてくれ。破産しても知らん。
僕は心の中で独りごちた。
 
「あとこのパンツとシャツも!
 ほら、駒さん! 試着して来てください!」
 
また僕は着せ替え人形になって、
高くて良い服を買ってもらってしまった。
値段がいくらかを知るのが怖くて、今回僕は会計時には
店外へ出ている事にした。
 
店員さんと犬飼さんが出て来た。
 
「ありがとうございました」
 
「さあ! 帰りますよ、駒さん!」
 
「帰るってどこに?」
 
犬飼さんは淫らさたっぷりな感じで耳打ちして来た。
 
「俺んちに決まってるじゃないっすか……。
 楽しみましょうね、目一杯」
 
敢えて無視して、僕は言った。
 
「あ、CA4LAの帽子も見てっていいですか?」
 
「勿論っす」
 
CA4LAでかわいいベレー帽を見つけたので、それも買って貰い、
犬飼さんの家へ向かった。
 
犬飼さんの家は、犬飼さんの小奇麗で爽やかな印象とは対照的に、
いかにも男の部屋、という感じだった
散らかってはいるが、辛うじて足の踏み場はあるといった感じだ。
部屋に入るなり雄臭さが漂ってきて、恥ずかしながら
ムラムラ来てしまった。ヤりたいと思ってしまう。
 
犬飼さんから部屋着を借りた。やはり身長差があるので
だぼだぼしていたが、これからヤッて寝るだけなので
どうでも良かった。
 
犬飼さんが濡れたスーツを干し終え、部屋着に着替え
ベッドに寝転がる。
僕もその隣に寄り添うように寝転がった瞬間、
犬飼さんは僕に抱き付いてきた。
しかし、いくら待てどもそれ以上の事はして来ない。
不思議に思って尋ねた。
 
「あの、ヤらないんですか?」
 
「俺、まだ会った事も無いし、ムカつきもしたっすけど、
 亘さんって人の気持ち、解った気がします。
 ここで無理矢理ヤっちゃうのは簡単っすけど、
 駒さんに本気で好きになってもらってからヤりたいっていうか……。
 だから、今日は自分も亘さんって人を見習って、
 一緒に寝るだけにしたいと思うっす」
 
「でも、こんなになってるのに?」
 
指先で軽く犬飼さんのズボンに大きく張られた『テント』を弾いた。
犬飼さんは顔を真っ赤にさせると、起き上がってトイレへと駆け込んで行った。
 
かわいいやつめ。
そう思っている内に睡魔に襲われ、
僕は深い眠りへと落ちていった。

 

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