僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

悲しみさえ売り飛ばした僕は

金曜の夜、寒かったが二丁目へ出てみた。
BIGSビルから出てきて、丁度BIGSビルの裏を歩いていた所、
背後から見知らぬ男に声を掛けられた。
 
「ねえ、君。
 いくら?」
 
「えっ?」
 
いきなり声を掛けられ驚いた僕は振り向いて
男を見た。
 
「いくらかな? ウリやってるんでしょ?」
 
「いえ、僕はウリやってる訳じゃなくて、
 ただの通りすがりですけど……」
 
暗くて良く見えなかったが、男を凝視してよく観察した。
この雨にも関わらず、ぱりっとしたスーツ姿だ。
40代後半と言った所だろうか。50代かも知れない。
歳はいっているが、顔は悪くなかった。
若き日にはモテた事だろう。
 
「もっと明るい所で顔見せてよ」
 
男に言われるがまま街灯の下まで移動して、傘を閉じて
顔を見せてやった。
 
「かわいいね」
 
「はあ、どうも」
 
「君ならちょっと多めに出すよ。
 どうかな?」
 

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「――いくらで買ってくれるんですか?」
 
好奇心から訊いてみた。
 
「うーん、1本と2千ぐらいかな」
 
金額のしょぼさに思わず笑った。
しかし、どこかで個人でのウリの相場は
8千円と聞いた事がある。
それを踏まえた上では、1万2千円と言う金額は
かなり大盤振る舞いと言えるだろう。
 
生活に困る事も多い僕は、幾度もウリを考えた事があった。
だが実際に行動に移すには勇気が要って、
何度も見送ってきた。
そんな中、これはチャンスかも知れないと思い立ち、
男の話に乗る事にした。
 
「いいですよ。
 どこに行きましょう」
 
「いつも使ってるホテルがあるから、そこで」
 
こうして僕は、生まれて初めて
自分の身体を金で売る事にした。
 
男の機嫌を取ろうと、腕を組んでみた。
 
「おお、恋人同士みたいで嬉しいな」
 
効果があって良かった。
気分を良くしたらしい男が更に提案してきた。
 
「明日の朝まで一緒に過ごしてくれたら、
 プラスでもう1万払うよ。どうする?」
 
「是非ご一緒させてください」
 
僕は自分の傘を閉じて、男に密着して
自分の頬を男の肩に寄せた。
 
「ははっ、これは堪らないね」
 
「ウリやるの初めてなんで、優しくしてください」
 
「元からそのつもりだよ。安心して。
 もしお金の事も心配だったら、先払いでもいいよ。
 普段は絶対後払いにしてるけど、
 君、お金貰ったからって逃げちゃう様な子じゃないでしょ」
 
男はジョナサン向かいのファミリーマート前で立ち止まり、
内ポケットから財布を取り出し、そこから
2万2千円を出して僕に手渡した。
これで何を買おう。とりあえず米と酒を買おう。
そんな事を考えながらお金を受け取った瞬間、
ファミリーマートから人が出て来た。
 

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――亘だった。
最悪のタイミングだ。
最初はにこやかに声を掛けようとしていた様子だったが、
僕の手に握られたお札と、僕を買った男を交互に見て、事情を察した様だった。
一気に亘の表情が変わった。
その表情は、怒り。
怒りに満ちていた。
 
「駒ちゃん、お前何やってんの?」
 
亘は早口で捲し立てる。
僕は冷笑して答えた。
 
「何って、もうこれを見りゃあ解るでしょう。 
 子供じゃないんだから」
 
今しがた男から貰った2万2千円を
ひらひらと靡かせて見せてやった。
 
「お前ふざけてんの?」
 
亘が僕の手中にあるお札を取ろうとしたので、咄嗟に身を避けた。
その刹那、左の頰に衝撃が走った。
亘が僕を平手打ちにしたのだ。
思わずよろけた拍子にお札は亘に奪われた。
僕は頭に来て怒鳴った。
 
「自分こそ何してるんですか!」
 
しかし亘は僕を無視して僕を買った男に言った。
 
「おっさんさあ、悪いけどこれ返すから
 他当たってくれない?」
 
男は渋った。僕を気に入って一晩僕を買ったのだから当然だ。
亘は苛つきながら、自分の財布から3万円を出し、
2万2千円に追加して男の眼前に差し出した。
 
「これだけあれば店でもっと良い子を一晩買えるだろ。
 だから今日のところは勘弁してくれない?」
 
男は渋々金を亘から受け取り、夜道に消えていった。
 
「何余計な事してくれてるんですか。
 せっかく初めて客捕まえたのに」
 
また左頰を張られた。それもさっきより強い力で。
 
「いっ……!
 なんで打つんですか!いい加減にしてください!」
 
亘に張られた左頬がヒリヒリしてとんでもなく痛かった。
昔女の担任に理不尽に喰らわせられたビンタより遥かに痛かった。
 
「お前は何にも解っちゃいない」
 
「亘さんこそ、僕の何が解るって言うんですか?
 亘さんって僕の何なんですか?
 勘違いも甚だしいですよ」
 
「気分が悪い。帰る」
 
「勝手にどこでも行けばいいじゃないですか。
 さっさと僕の前から消えてください」
 
亘は踵を返すと、そのまま新宿駅方面へと去って行った。
 
僕は雨の中、未だジンジンと痛む頬を摩りながら、立ち尽くしていた。

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