僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

世界が背を向け返事をしないのなら その2

誰かが僕を渾身の力で殴ったのだと
頭で理解したのは、
クラブの床に倒れ込んでからだった。
 
盛り上がっていたクラブが騒然とした。
 
僕を殴った奴はそのまま立ち去ろうとしたようだったが、
亘に首根っこを捕まれ観念した。
そのまま亘は携帯で誰かに電話をしていた。
 
「あ、もしもしトクちゃん?
 警察呼んでくれない?
 俺の連れが殴られた」
 
忘れていた。亘の2丁目での影響力と、
その人気者っぷりを。
そりゃあそんな亘に僕みたいな不細工が
べったりくっついていたら
誰だって不愉快に思うだろう。
殴られても致し方ない。
 
しかしいくらなんでもこれはやり過ぎだ。
口の中が鉄の味がする。
きっと殴られた拍子に口中が切れて出血しているのだろう。
 
近くに居た親切な外国人が床に倒れた僕を起こしてくれた。
 
亘と僕を殴った奴が何かを怒鳴りあっている。
内容からして痴情の縺れと言った所であろうが、
それであれば何故亘ではなく僕を殴ったのだろうか。
 
程なくして、警察官が複数人入って来た。
クラブがより一層物々しい雰囲気に包まれた。
僕を殴った奴を亘が警察官に突き出していた。
僕も事情聴取との事で、警察官に連れられクラブを出た。
 
警察官から色々と質問されたが、
本当に見ず知らずの相手だったので、
『知らない人にいきなり殴られた』としか
答えようがなかった。
 
事情聴取が終わると亘がやって来て、
物凄く謝って来た。
 
「ごめん、本当にごめん。
 全部俺のせいで……」
 
「いや、亘さんに謝られても。
 悪いのは殴ってきた奴だし」
 
亘もモテるが故に色々大変なのだな、と思いつつ、
僕は今日のところは帰らせてもらう事にした。
すっかり酔いも亘に絆された気持ちも
醒めてしまったし、疲れた。
 
「絶対埋め合わせするから!
 本当にごめん!」
 
「いえいえ、お気になさらず。
 では、おやすみなさい」
 

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日曜日、昼過ぎに起きて鏡を見てみると、
殴られた左頬に見事に痣が出来ていた。
うんざりして、また再度布団に戻った。
亘からのLineも来ていたが、
今は読む気が起きなかった。
 
月曜日になっても痣は引かなかった。
今日は休んでしまおうかなとも思ったが、
生活の為バイトを休む訳に行かず、
仕方なしに出勤の準備をしていると、
部屋のチャイムが鳴った。
 
玄関のドアスコープから外を覗く。
そこに立っていたのはスーツ姿の亘だった。
驚いて扉を開けた。
 
「おはよ。土曜日は本当に悪い事をしたね」
 
「いえ、気にしてないですけど、
 どうなさったんですか?」
 
「ちょっと手伝って欲しい事があるんだ。
 今日は駒ちゃんの職場には
 俺の業務の手伝いって事にしてあるから、
 ちゃんとお給料も出るよ」
 
とにもかくにも、鞄を持って靴を履いて
部屋に鍵をかけ、亘についていくと、
僕のアパートの前にタクシーが停まっていた。
 
中からきちっとしたスーツ姿の男性が出て来た。
 
「おはようございます。
 駒様、でいらっしゃいますよね。
 私、こう言う者でございます」
 
そう言って男性は名刺を僕に差し出した。
名刺には●●法律事務所、弁護士、田中一郎と
書いてあった。
 
「亘様からお話をお伺いしましたが、この度は
 大変な目に遭われたそうで、胸中お察し致します。
 私が今回の件について解決へと最大限尽力させていただきますので、
 どうぞよろしくお願い申し上げます」
 
「は、はあ……。よろしくお願いします」
 
「駒ちゃん、とりあえず乗って。
 まずは病院行こう」
 
タクシーに乗せられ着いた病院は、一見普通の病院ではあったが
何やら雰囲気がおかしかった。
と言うのも……明らかに、患者が全員堅気ではない。
 
びくびくしながら形成外科で順番を待った。
形成外科の先生は、痣は数日で引くだろうが、
事情が事情な故、念のため
CTとレントゲンも撮っておきましょうと言う話になった。
また、診察中も亘と弁護士の田中さんも同席だった。
 
言われるがままにCTとレントゲンを撮った。
 
それで終わりかと思いきや、
今度は心療内科に連れて来られた。
今回の件について、クラブが怖くなったか、
肩を叩かれるのが怖くなったか等と色々聞かれたが、
どの質問も別段そうでもなかったので、特には、と答えていった。
 
会計の段になった。
支払いは亘が済ませてくれると言うので、
また亘の厚意に甘えた。
これで僕の役目は終わりに見えたが、顔の痣に貼る湿布を
処方されたので、亘の会計を待つ必要があった。
しばらく時間がかかりそうだったので、
ジュースでも飲もうと思い一人で自販機があるコーナーへと向かった。
 

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自販機がいくつか並んでいる前で
しばらくどれにしようか僕が悩んでいると、
いきなり男が僕を怒鳴りつけて来た。
 
「お前、さっさとしねえか」
 
びっくりして僕は咄嗟に謝り、順番を譲ろうとした。
 
「すいません、お先にどうぞ」
 
「俺はお前がそこに突っ立ってるからずっと買えねえでいたんだよ」
 
普通暴力団の人と言うのは広島弁や関西弁が多いイメージだったが、
その男は標準語だった。凄まれた恐怖もあったが、
珍しいなと考えていると、急に男が顔を歪めて屈んだ。
驚いて男と視線を合わせる為自分も屈んで話しかける。
 
「あの、どうなさったんですか」
 
「脚を痛めてるんだ。放っておけ
 
「そういう訳には行かないですよ。肩貸しますんで、
 捕まってください」
 
男は渋りながらも僕の肩に腕を回し、僕がゆっくり
立ち上がっていくのに合わせて立ち上がった。
 
「飲み物、どれになさいますか」
 
「……そこの、ホットコーヒー」
 
僕は丁度240円が財布に入っていたので
そこから男にコーヒーを買ってやった。
そして自分のジュースも買い、男の席へと肩を貸したまま
連れて行ってやった。
男の席には杖が置いてあった。
 
「医者がしばらくは杖ついて歩けって言うけど、
 年寄りでもねえのに杖なんかついてられっかと思って
 杖無しで歩いたらこのザマだ。
 みっともねえったらありゃしねえ」
 
「お怪我されてる間は仕方ないですよ」
 
男がコーヒーを開けて飲み出したので、
僕も自分のジュースを開けて飲んだ。
 
男はコーヒーを飲み終えると、僕の顔をまじまじと見つめ、言った。
 
「お前、良い顔をしているな」
 
「はあ……ありがとうございます」
 
「携帯電話の番号を教えろ」
 
「えっ、携帯の番号ですか?」
 
「嫌ならいい」
 
「いえ、嫌ではないですけど……」
 
「なら、教えろ」
 
Lineでもメールアドレスでもなく、携帯の番号。
男の意図が掴みかねて躊躇ったが、
断るのも怖くて教えてしまった。
 
「名前は」
 
「――名前は駒って言います。
 番号は、×××の……」
 
「俺は龍だ。
 番号は……」
 
こうして見ず知らずのヤクザ――龍と
連絡先を交換してしまった。
 
「それでは、そろそろ戻らないといけないので失礼します。
 杖、ちゃんとつかないとだめですよ」
 
「解った。
 コーヒー、ありがとう」
 
こうして龍と別れ、亘達の元へと戻ると、
丁度亘が会計を済ませたところだった。
湿布を処方してもらって、僕はタクシーで家まで送ってもらった。
亘達はまだやる事があるらしく、僕を家へ送った足で
またどこかへ向かっていった。
 
病院へ行くだけで一日分の給料が出るなら
これに越した事はないなと思ったが、
湿布を貼ったと同時に加害者への怒りが初めて込み上げて来た。
なんなんだあの野郎は。
しかし今一人で怒っていても仕方ないなと思い、
その日はそのまま寝てしまった。
 

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