僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

僕達の孤独は

先週の木曜日の夜、一本の電話が掛かってきた。

 

誰からだろうと画面を見ると、

『龍』と表示されていた。
先日病院で遭遇し、電話番号を交換したヤクザの男だ。
僕は出るか出まいか一瞬考えたが、
とりあえず出てみる事にした。
 
「はい、もしもし」
 
「……駒さんのお電話ですか」
 
「はい、駒です。
 龍さん、でしたよね」
 
「はい」
 
そう言ったきり、龍さんは黙りこくってしまった。
しばしの間、気まずい時間が流れたが、
互いの沈黙を破ったのは龍さんだった。
 
「明日の祝日、空いてませんか」
 
何故敬語なのだろう。
意図を汲みかね、不審にも思ったが、
実際予定は無かったのでありのまま伝えた。
 
「空いてますよ」
 
「それでは、明日、会えませんか」
 
なんと答えるべきかかなり悩んだが、
誘いを無下に断っても後が怖そうだし、
会ってみようと思った。
 
「はい、良いですよ」
 
「……ありがとうございます。
 どこか、行きたい所はありませんか」
 
「特にはないですけど」
 
「それでは、俺に任せてもらっても良いですか?」
 
「はい、お付き合いします」
 
「ありがとうございます。
 明日駒さんの最寄り駅まで
 車で迎えに上がるので、
 最寄り駅を教えてくれませんか」
 
それは若干嫌だな、と思ったが、
仕方あるまいと教えた。
 
「それでは、明日11時に。失礼します」
 
「解りました。失礼します」
 
こうして龍さんと会う事になった。
急に敬語になったのも気になるし、
果たして大丈夫なのだろうかと言う不安もあったが、
何か面白い話が聞けるかも知れないとも思った。
何よりネタ切れが続いていた当Blogの良いネタになるだろうと
少しわくわくする。
 

f:id:komadiary:20171106225932j:plain

 
10時50分。僕は約束の時間より少し早めに
最寄り駅前のロータリーに着いていた。
相手が相手なのもあって、待たせでもしたら
おっかないと思ったのだ。
 
それから10分。
11時きっかりに龍さんから電話がかかってきた。
 
「もしもし、おはようございます。
 今ロータリーの所に居りますが、
 車まで来ていただいても良いですか。
 車体は黒で、窓も黒いので
 すぐお分かりになられると思います」
 
龍さんの言う通り、龍さんの車は一目瞭然だった。
車には明るくないが、
いかにもヤクザが乗ってそうな車だったからだ。
 
助手席の窓を軽くノックした。
窓が下がる。
 
「どうぞ、乗ってください」
 
言われるがまま、僕は助手席に乗り込んだ。
龍さんは前回はヤクザ風のスーツ姿だったが、
今日はカジュアルな格好をしていた。
かと言って、ヤンキーの様な出で立ちではなく、
小奇麗にまとめたファッションだった。
ごくごく一般的な、清潔感のある成人男性と言った
出で立ちと呼べるだろう。
車と鋭い目付きを除けば。
 
「それでは車を出しますので、シートベルトをお願いします」
 
「はい」
 
僕がシートベルトを装着したのを確認すると、
龍さんは車を出し、走り始めた。
 
しかし、相変わらず何も喋らない。
BGMもラジオもかけず、ただただ車の走行音のみが
車中に響いていた。
 
重い空気に耐えかね、僕から話を切り出した。
 
「い、良いお天気ですね」
 
「そうですね」
 
「今日は、これからどちらへ?」
 
「――海を見たいなと思っています」
 
「海、いいですね。お天気も良いですし」
 
「あと、もしお手洗いに行きたくなったりしたら
 遠慮なく言ってください」
 
「はい。お気遣いありがとうございます」
 
こうしてヤクザ者の龍とのデート(?)が始まった。
 
 

f:id:komadiary:20171106230042j:plain

 
途中でトイレや飲み物を買いにコンビニで止まったりしつつ、
車は逗子辺りの海岸に着いた。
 
近くの駐車場に車を停め、
砂浜の適当な所に龍さんが持ってきたレジャーシートを敷いて
そこへ座り、熱い缶コーヒーを飲んだ。
 
「少し寒いけど、いいですね」
 
「そうですね」
 
僕達は暫くお互い無言で海を眺めて過ごした。
そんな沈黙を破ったのは龍さんだった。
 
「自分、口下手なんで、
 自分と居ても楽しくなんかないですよね。
 おまけにこの歳で杖なんかついたりして、みっともないし、
 恥ずかしくないですか」
 
「そんな事ないですよ。
 寡黙で素敵な方だなと思いますよ。
 杖はお怪我されてるんですから当然の事ですし、
 それで一緒に居て恥ずかしいだなんて
 僕は全く思いません」
 
「――ありがとうございます」
 
「とんでもない、お礼を言うのはこちらの方ですよ。
 今日は誘ってくださってありがとうございます」
 
その時、冷たい潮風が吹いて、僕は身震いした。
 
「寒いですね。
 ……しばらく、こうしてても良いですか」
 
そう言いながら龍は僕の肩に腕を回し、
僕の頭を自分の肩へくっ付けた。
 
「こうしてると、暖かいです」
 
「恥ずかしくは無いですか」
 
「平気です」
 
冷たい潮風に冷やされた僕の頬に
龍のいかつく広い肩は暖かく、
何者かも良く解らない相手だと言うのに、
『誰かと共に居る』と言う感情が
僕の心を暖かに満たしていった。
 
「また、誘ってもいいですか」
 
「勿論です。僕からもお誘いさせてください」
 
そのまま、再びお互い言葉を交わさず過ごした。
ぽつりと龍さんがこぼした。
 
「俺は孤独です。
 駒さんは、どうですか」
 
「僕も孤独ですよ。
 それが龍さんと比べてどれ程の差があるかは
 解りませんが」
 
「そうですか」
 
龍さんは僕の肩を抱く腕の力を強くした。
頬を擦る潮風。沈んで行く夕陽。押しては引いて行く波の音。
そう。僕達は孤独だった。
これだけ近くに居て、傍に居て、抱き合って、
仮に言葉を並び立てても、僕達の孤独は
背中に纏わり付いたまま強く心を掴んで離さない。
 
それでも、僕は龍さんの孤独を少しでも引き剥がしてやりたいと、
砂浜に放り出された杖を眺めながら思ったのだった。

にほんブログ村 セクマイ・嗜好ブログ 同性愛・ゲイ(ノンアダルト)へ