僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

今夜だけはそばにいて 後編

亘の愛が怖かった。
亘の優しさが怖かった。
いつかはそれらを失うかも知れないと思うと、恐ろしくて、
頭がおかしくなってしまいそうだった。
 
気が付くと僕は自分の部屋の前に立っていた。
どうやってここまで帰って来たのかは全く覚えていなかった。
外は薄暗くなって来ている。
 
部屋の鍵を鍵穴に挿そうとした瞬間、亘の瞳を思い出した。
僕を見つめる、あの瞳。
 
扉を開ける事が出来ず、僕は部屋の前で立ち尽くしていた。
そして、思い起こした。
亘の体温。囁く掠れた声。僕を抱き留める腕の強さ。
僕を愛していると言ったあの唇。
 
鍵を握った手が震えた。
僕はまた1つの愛を踏み躙ったのか。
 
鍵をしまい、部屋の扉に背を向けて歩き出す。
そしてアパートの門を出ると、僕は暗くなりつつあった夕方の道を走り出した。
 
全速力で走る。こんなに走ったのはいつぶりだろう。心臓が潰れそうだ。
 
普段は20分かかる駅までの道程を10分強で辿り着いた。
僕は盛大に肩で息をしながら走り続け、改札を目指す。
 
改札は帰宅ラッシュの人々でごった返していた。
そんな人混みの中をすり抜けて改札を通った。
勢い余ってぶつかってしまった人から罵声を浴びせられたが、
それすら無視してホームに駆けて行くと、丁度電車が出てしまうところだった。
閉まり掛けた扉に体を滑り込ませる。
車内アナウンスで『駆け込み乗車は危険ですのでお止めください』と
注意されてしまったが、今の僕はそれどころではなかった。
一刻も早く。
電車の中ではただそれだけを考えていた。
 
そして僕はMJ駅に辿り着いた。
時刻は既に夜になっていた。
改札を抜けるなり僕はまた走り出す。
亘のマンションへと。
 
亘のマンションに着き、部屋番号をオートロックの機械に入力しようとしたが、
また手が震えて躊躇った。
だが、しかし。
 

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亘の部屋番号を入力し、呼び出しボタンを押した。
反応は無かった。
諦めず、2回目の呼び出しをした。
それでも反応は無かった。
3回。4回。反応は無い。
これで出なかったら最後にしよう。
そう心に決め、5回目の呼び出しを押した。
 
遂に亘が応答した。
 
「あっ、あの、亘さん――」
 
亘は何も言わずに通話を切ったが、扉は開錠された。
部屋に上げてくれる気はあるようだ。
エレベーターに乗り込み、最上階の角部屋を目指す。
 
亘の部屋の前に着いた。恐る恐るチャイムを鳴らすと、
中から鍵を開ける音が聞こえた。
 
そっと扉を開けて玄関に入ると、亘は三和土で立ち尽くしていた。
消沈しきった様子だった。
 
「何? 忘れ物?」
 
「あの……あの、亘さん」
 
亘は僕を見つめていたが、その瞳にはもう僕と言う人間は映っていないように思えた。
 
僕はそれが急に悲しくなった。自分が取った行動のせいだと言うのに。
 
「えっと、その」
 
亘は無言だった。
亘の漂わせている重苦しい雰囲気に僕も飲まれてしまい、
何も言えなくなってしまった。
 
僕達2人はしばらく無言で立ち尽くしていた。
 
あんなに優しくしてくれて、愛の言葉まで告げてくれた亘を
こんな風に追い込んでしまった事が心苦しくて、
それなのに本当の気持ちも言い出せなくて、
辛くて、苦しくて、悲しくて。
僕はとうとう涙を零した。
 
「僕、僕も、亘さんの事が好きです。
 でも、なんか、怖くて、
 僕、どうしたらいいか、解らなくて、
 だから、あの、その」
 
僕はしゃくり上げて泣いた。
 
突然泣き出した僕に亘は少し驚いた様子を見せたが、
やがてとても優しい顔をして、泣きじゃくる僕を抱き留めた。
 
「俺もどうしたらいいか解んないよ。
 でも、俺も駒ちゃんの事が好きだよ。
 それだけで、いいんじゃないかな」
 
力強く、それでいて優しく抱かれて、震えと涙が止まらない。
まるで幼い子供をあやすように、亘は僕の背をぽんぽんと叩きながら
僕の頰に口付けた。
 
「本当にかわいいね。
 駒ちゃん。好きだよ。愛してる」
 
「……亘、さん」
 
僕は亘の胸の中で思い切り泣いた。
 
この夜、僕は初めて亘に抱かれた。

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