僕が踏み躙ってきた愛情と日常の総て

ゲイ。アラサー。フリーター。こんな僕の日記です。

まだ不安な僕の恋の話

金曜日。19時00分。
僕と亘と櫻井さんは、新宿駅南口で落ち合った。
櫻井さんと僕は、陰で何か噂になると困ると言う事で、
別々に退社した。
 
また、本来であればS×の店でも良かったのだが、
これまた3人共変な噂でもされると面倒なので、
場所を新宿に移したのだった。

 

事前に亘には櫻井さんがものすごいギャルであると伝えていたのだが、
それでもやはりインパクトが強かったのか、
櫻井さんを目にした瞬間には若干ビビっていた。
しかし、櫻井さんは亘を視認すると、僕が紹介するよりも先に
丁寧にお辞儀をして挨拶をした。
 
「初めまして。いつも駒さんにお世話になっている
 櫻井と申します。
 どうぞよろしくお願い致します」
 
「ご丁寧に、どうも。
 初めまして。亘です。
 こちらこそよろしくお願いします。
 あまり堅苦しくならないでくださいね」
 
「ありがとうございます」
 
「とりあえず、ここで立ち話もなんだし、
 お店行きましょう。
 亘さん、案内してもらえますか」
 
「うん、解った」
 
亘を先頭にして、店へ向かって
3人で歩いていると、
櫻井さんが僕に耳打ちしてきた。
 
「彼氏さん、凄く格好良い方ですね。
 モデルさんかと思いました」
 
「はは、そうですかね」
 
2人で亘について囁きあっている内に、店に着いた。
相変わらず亘のチョイスなので高級店だったが、
ほぼ完全な個室になっているので、
これなら気兼ね無く話が出来るだろうと思った。
 
「飲み放題のコースなんで、
 とりあえず飲み物だけ選んでいただけますか。
 俺は生にしますけど、何でもお好きなものになさってくださいね。
 お酒苦手でしたら、ソフトドリンクもあるので」
 
亘は櫻井さんに気遣ってそう言ってくれた。
 
「ありがとうございます。
 でも、私も一杯目は生派なので、同じ生で大丈夫です」
 
「僕も生で」
 
「そうですか。では生3つで」
 
亘は呼び鈴のボタンを押して飲み物を注文した。
 
すぐに飲み物と前菜が運ばれて来た。
店員さんが個室を出ていった。
 
「それじゃ、駒ちゃん、何か乾杯の音頭を」
 
「乾杯の音頭って」
 
僕は苦笑した。一体何の集まりなのかも良く解らないというのに。
しかし求められた以上は応えないといけないだろう。
 
「まあ、なんか良く解らないですが、お集まりいただいて
 ありがとうございます。よろしくお願いします。
 じゃ、乾杯」
 
生のジョッキをぶつけ合い、3人でビールを呷った。
 
数口飲んだ櫻井さんが少し驚いた様子で言った。
 
「あれ、ここの生、美味しいです」
 
「良くお気付きで。ここ、ビールに拘ってるらしいんですよ」
 
僕は全く気付かなかったのだが、そういう事らしい。
若干緊張していた亘だったが、櫻井さんのその一言で
少し硬かった表情が緩んだ。
 

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僕達3人は喉が渇いていたようで、結構な速さで最初の一杯目を
飲み干してしまった。
2杯目も3人とも生を頼んだ。
 
間も無くして2杯目が運ばれてきた。
ジョッキを交換してもらい、前菜を食べ進めていると、
櫻井さんが切り出した。
 
「私、仕事では駒さんに本当に良くしていただいてて、
 もっと親しくなれたらいいなと思って、
 今日お誘いしたんですが……。
 あの、色々お聞きしてもよろしいでしょうか?」
 
「勿論ですよ。代わりに、俺も駒ちゃん――
 彼の日頃の様子も聞いて良いですか」
 
「はい、勿論です」
 
「では、お先にご質問をどうぞ」
 
「えっと……。私もあんまり言葉を選ぶタイプじゃないので、
 失礼だったら恐縮なんですが、
 お2人はお付き合いされているって言うのは、本当ですか?」
 
「本当ですよ。付き合うようになってからまだ日は浅いですが、
 愛し合っています」
 
亘はさらりと言ってのけたが、
あまりにもさり気無く、それも櫻井さんを前にして発された
『愛し合っている』という言葉に、
僕は急激に顔が熱くなるのを感じた。
 
「そうなんですね。
 お2人とも、良くお似合いですよ」
 
櫻井さんは微笑んでみせた。
亘は軽く笑って、今度は逆に櫻井さんに質問した。
 
「彼は職場ではどんな感じですか?
 ご迷惑お掛けしたりしてないですか?」
 
「迷惑だなんて、そんな。
 色々とご丁寧に教えてくださって、大変助かっています。
 それから私、こんな感じなので職場でかなり浮いてるんですけど、
 駒さんは分け隔てなく接してくださるので、
 それが心の支えになっています」
 
「そうですか。それは良かった」
 
それからしばらく、2人は僕の事について話し合っていて、
僕は若干気詰まりだった。
 
料理が進むにつれ、酒も進んで行き、
酔いも手伝い櫻井さんと亘は徐々に打ち解けて行った。
それでも櫻井さんは丁寧で、見た目はギャルとは言っても
とても育ちの良い女性なのだなと感心した。
 
「突っ込んだ事をお聞きしますけど、
 お付き合いに至った経緯って、お聞きしても良いですか」
 
「どうぞどうぞ! いや~、あれは――」
 
「亘さん、絶対言わないでください」
 
僕は亘を制止した。いくらなんでもそんな話、
小っ恥ずかしすぎる。
 
「なんでだよ~、いいじゃんかよ~。
 あれは……あっはは、めちゃくちゃかわいかったなあ」
 
「やめてください」
 
「と、まあ、言ったら怒られそうなんで、詳細は内緒で。
 でもこいつ、本当にかわいいんですよ~。
 全然素直じゃなくって」
 
「やめてくださいってば」
 
僕と亘のやり取りを見て、櫻井さんはくすくす笑った。
 
「確かに、駒さんかわいいですよね。
 亘さんもうっかりなさってると、
 他の人に取られちゃいますよ」
 
「それは困りますね~。
 やっぱり早く籍入れちゃおうかな?
 どでかい式挙げたりして」
 
「お断りします」
 
「挙式、楽しみです。
 その時は絶対呼んでくださいね」
 
「式なんて挙げません」
 
「いいじゃんかよ、結婚式。
 俺のタキシード姿見たら惚れ直すぜ、きっと」
 
亘はそう言って豪快に笑うと、ちょっと失礼、と席を離れた。
 

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それまで、にこにこと笑顔を浮かべていた櫻井さんが
ふいに真剣な表情になり、僕の目を見据えて言った。
 
「駒さん。
 絶対、亘さんから離れたり、
 裏切ったりしたらダメですよ。
 こんなに良い人――いえ、ただ良い人って訳ではなくて、
 ここまで駒さんの事を想ってくれる人、
 きっとそうそう出会えないですよ」
 
僕はいつになく神妙で力強い櫻井さんのトーンに圧倒されて、
吃りながら答えた。
 
「えっ、あ、はい……そんなに、ですかね」
 
「はい。そうです。
 亘さんは、駒さんの全てを受け容れてくれるだけの
 器のある素晴らしい方だと思います」
 
「そうだといいんですけど……」
 
「きっと、まだ亘さんには打ち明けてない事とか、
 秘密にしてる事、あるんじゃないですか」
 
僕は櫻井さんに心を読まれたような気がして戦いた。
確かに、亘にはまだ伝えていない事がいくつかあった。
まだ、不安で、怖かったから。
 
「でも、大丈夫ですよ。
 駒さんがそれを亘さんに伝えても、
 絶対嫌われたりしないし、
 気持ちが覚めてしまわれたりする事は無いです。
 私が保証します」
 
「そ、そうですか」
 
保証までされてしまった。
それ程までに亘は素晴らしい人物なのだろうか。
 
会計の段になった。僕と櫻井さんが財布を出そうとしたら、
亘がもう払った、と言う。
僕は正直、亘に奢られ慣れてしまっているので、
そうだろうな、と思って財布をしまったが、
櫻井さんは中々引き下がらなかった。
亘は根負けして、『また次飲んだ時にお願いします』と提案し、
ようやく櫻井さんは引き下がった。
 
亘と僕は2軒目、と思っていたのだが、
櫻井さんは気を遣ってくれたのか、『あとはお2人で』と言い残し
帰っていった。
 
それならば、久々に2丁目でも行こうかと亘は提案して来たのだが、
丁度雨が降ってきてしまい、行く気が殺がれ
亘の部屋で飲む事にした。
 
帰りにスーパーへ寄って、食品と酒を買い込んで
亘の部屋へ向かった。
 
僕は亘の部屋へ帰ると、適当につまめるよう、
レンジで簡単に作れる湯豆腐と、ポテトサラダ、
それからちくわをバターで炒めてとろけるチーズであえたものを
作って亘に出してやった。
 
勿論自分も軽くつまめるようにと思って作ったのだが、
殆ど亘に食べられてしまって、僕の取り分は僅かだった。
まあ身体の大きさからして違うのだから仕方ない。
 
ちびちびと甘い缶チューハイを啜っていると、
ダイニングテーブルを挟み向かい合って座っていた亘が
僕の隣へ移動してきた。
 
「へへ、ごめんね、おいしいから殆ど食べちゃった」
 
「いいですよ、僕だって散々ご馳走になったんですから」
 
「ねえ、駒ちゃん、好きだよ」
 
「はい」
 
「駒ちゃんは?」
 
「……好き、です」
 
「声、ちっちゃいね。
 かわいい。
 好きだよ」
 
亘は僕の耳元で囁く。
そして僕の頭を撫で、口付けてきた。
 
本当に、こんな日が続いていくのだろうか。
仮に亘が僕の闇に触れたとして。
僕はそれが不安で、怖くて、切なくてならなかった。

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